なぁ、人肉館に行かないか? 3/3

廃墟 厨房

 

冷蔵庫は錆(サビ)だらけで、

とても動きそうだとは思えない。

 

取っ手に手を掛け、

手前に引いてみる。

 

ガタッ。

ガタッ。

 

鍵がかかっているのだろうか。

 

扉は開かない。

 

しばらく押したり引いたりを繰り返してみたが、

扉が開くことはなかった。

 

私は友人を再び探そうと、

 

先ほど二階で友人を見失った

大型機械の方へ向かう為、

 

冷蔵庫へ背を向け数歩、歩いた。

 

その刹那。

 

ブォォォォォン。

 

突然の轟音に体が硬直する。

 

何処から聞こえてきているのかは、

すぐに察しがついた。

 

真後ろにある冷蔵庫だ。

 

もう壊れているだろうと

思い込んでいた冷蔵庫が、

 

凄まじいファンの音を響かせながら

動き始めたのだ。

 

私は意を決し、振り向いた。

 

足は、あまりの恐怖で

震えが止まらない。

 

もう、何がなんだか

分からなくなってきた。

 

何故、急に冷蔵庫が動き始めるんだ・・・

 

数十秒、

 

轟音を発する冷蔵庫を

ただ呆然と眺めていると、

 

やがて音は止んだ。

 

そして・・・

 

ギィィィ。

 

冷蔵庫のドアが開いた。

 

重く、鈍い音が部屋に響き渡る。

 

ドアはこれでもかというほど遅く、

その奥に隠されていた物をさらけ出していく。

 

見慣れた目。

 

見慣れた鼻。

 

見慣れた口。

 

見慣れた顔だ・・・

 

友人の首がそこにはあった。

 

友人とは中学生からの付き合いである。

 

中学生時代はほとんど毎日登下校を共にし、

一緒に沢山遊んだ。

 

高校と大学はそれぞれ別の学校へ進学し、

その後の友人は地元企業へ就職。

 

私は東京の企業に就職した。

 

お互い違う県に住んでいても、

帰郷した時には必ず一緒に酒を飲みに行く。

 

何でも話し合える大切な友人だ。

 

そんな友人の首が、

開かれた扉の奥に置いてある。

 

両目から血が流れ、

黒目は左右別の方向を向いている。

 

そして口からは、

蛇のように長い舌が飛び出ている。

 

恐らく、切り取られて、

口にくわえさせられているのだろう。

 

私は失禁した。

 

そして、震えが絶頂に達した足は

私の体重を支える力を失い、

 

私はその場に座り込んだ。

 

ただただ悲しみに暮れ、

呆然とすることしか出来なかった。

 

そして・・・

 

カシャー。

カシャー。

 

どこからともなく、

金属の擦れる音が聞こえてくる。

 

どうやらその音は冷蔵庫の奥、

 

月明かりが届かない

闇の中から聞こえてくる。

 

私は、懐中電灯をその音に向けた。

 

光の中から徐々に何かが現れてくる。

 

ゆっくり、ゆっくりと・・・

 

それは、

とてつもなく長い包丁を両手に持ち、

 

血だらけのエプロンと

手袋を着けた男と、

 

真っ赤な血に染まった

友人の服を着た女だった。

 

女の手には人の腕が握られている。

 

男が両手に持っているのは、

牛の首を斬首するための包丁なのだろうか。

 

刃は錆びきっており、

血がこびりついている。

 

男は笑顔で、

 

その両手に持った包丁を

しきりに擦り合わせている。

 

女が持っている腕には、

友人がしていた腕時計が巻かれている。

 

女はその腕時計を、

狂ったように外そうとしている。

 

私はその腕時計が何を意味しているのか、

考えたくもなかった。

 

彼等は私に、

 

友人を失ったことに対して悲しんでいる

時間を与えてはくれなかった。

 

男が両手の包丁を振り上げながら、

こちらに向かって走って来る。

 

殺される。

 

私は立ち上がり、

全力疾走で今来た道を走った。

 

一度も振り返ることをせず、

ただただ出口に向かって走った。

 

後ろからはガシャンガシャンと

物が壊される音と、

 

叫び声が聞こえてくる。

 

走りながら私が聞いた言葉は、

 

「いただきます」

 

という言葉だ。

 

男はその他にも、

意味不明なことを叫んでいる。

 

出口から飛び出し、

車に飛び込んだ。

 

震える手を押さえながら、

イグニッションを回す。

 

すぐにエンジンがかかり、

私は車を走らせた。

 

山の麓には、

どこかで転回しないと戻れない。

 

私は山を登った。

 

曲がりくねった山を登っていくと、

やがて霧が辺りを覆ってきた。

 

霧のせいで、

ほとんど視界はゼロに近い。

 

やむを得ず速度を落とし、

 

転回できるスペースが無いか、

辺りをよく見回す。

 

見回しながら車を進めていくと、

 

この道の終了を意味する、

鉄製の丈夫な門が現れた。

 

門には鎖が何重にも巻かれており、

 

たとえ車で突っ込もうとも

開くことはないだろう。

 

それを見て、私は車を止めた。

 

そして友人のことを考え泣いた。

 

泣きながら窓の外を見る。

 

そして私は携帯電話を取り出した。

 

宛先:お母さん

件名:ごめんね。

本文:

お母さんごめん。

やっぱり東京に戻るよ。

ちょっとやぼ用が出来ちゃってさ。

お母さんの作ったご飯、

久しぶりに食べたかったけど残念だな。

また来るからね。

本当にごめん。

 

送信を終え、

私は携帯電話を閉じる。

 

そして、

先ほどから私の横に立っていた男は、

 

私が携帯電話を閉じるのを見て、

車の窓ガラスを叩き割った。

 

(終)

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