廃墟で出くわした多弁な男
フリーのカメラマンをやっている親戚が話してくれた出来事。
もう随分前に子供向けの怪談本の仕事で、心霊スポットの写真を撮るために関東近郊の廃墟を巡ったとか。
編集部の人間と二人でかなり密なスケジュールの仕事だったため、一つ一つは覚えていないが、そのうち一ヶ所で奇妙なことがあったそうだ。
いるはずの男が写っていない・・・
午前中からある廃墟での撮影だったのだが、その建物内で男に出くわした。
非常に多弁な男で、聞くと地元の人間でこの廃墟には詳しいと言う。
正直なところ邪魔だったが、トラブルは避けたいので無下には出来なかった。
男は大きな身振り手振りで建物内の紹介や、それにまつわる話を興奮気味に話した。
“殺人死体遺棄現場”だったとかで、編集部の事前の説明とも一致していたが、妙に詳しく話すので眉唾だろうと聞き流していた。
とにかくよく動く男で、撮影中も遠慮なく被写体に近づくものだから、何枚かの写真には写り込んでしまったと思われるものもあった。
ボツ写真だろうが仕方ないと我慢して、男が解説しながら現場に指を指しているような写真も撮った。
その日、スタジオに戻り写真をチェックして驚いた。
男が写り込んでいるはずの写真が一枚もない。
あの指を指している写真にも、男が居たはずの場所には何も無い。
それ以外には特に異常無く、写真自体は普通に撮れている。
しかし、いるはずの男が写っていないのだ。
気味が悪いので、この場所はボツにしようと提案した。
同行した編集者がかなり怯えたこともあり、その写真が誌面に載ることはなかった。
事件の経緯はよく分からないが、加害者グループの一人はすでに亡くなっていたとか。
そして、親戚は最後にこんなことを言っていた。
もしかしたらあの出くわした男は、すでに亡くなっている加害者グループの一人だったんじゃないかな。
そしたら、あんな解説なんかして全然反省してないじゃないか。
それが一番怖いよ。
(終)