学校主催の肝試し大会をやることになったので
僕が中学生の頃の話。
僕は中学の3年間は同じ部活に入っていて、そのクラブの顧問が「川セン」と生徒から呼ばれていた少し変わった先生だった。
川センは自分で作った電動のヒコーキのおもちゃを蛍光管から糸で吊るそうとして電灯を粉々にしたり、打ち捨てられたバイクやら三輪車やらをバラして組み立ててはゴーカートもどきを作って校庭を走り回ったり、と。
50歳を過ぎた教師とは思えない、子供みたいな人だった。
そんな川センは、幽霊を全く信じない人だった。
雑誌の心霊写真特集を見て騒いでる僕たちに、「こんな写真いくらでも撮ってやるよ」と言って来た時もあった。
(実際に、近所の公園の池からネッシーが顔を出している合成写真を作って持ってきた)
1年生の7月頃、学校主催で『肝試し大会』をやることになった。
脅かしてやろうと企んだが・・・
うちの学校は過去に、ユキちゃんという女子生徒が玄関近くの階段から落ちて亡くなっている。
僕が入学する前のことだけど、昔からいる先生は皆知っていた。
夜になると、『幽霊のユキちゃんが階段で当時の流行の歌を歌っている』という噂もあり、生徒はみんな夜の学校を気味悪がっていた。
先生たちはそうでもなかったみたいだけど、やっぱり気味悪いのか、肝試しを始める前に余興で流すビデオを撮る役目は、幽霊を信じていない川センがやることになった。
それを知った同じ部活のN男は、「先生を学校で待ち伏せてビックリさせようぜ!」と言い出した。
特に部内でもアホだった僕、N男、つーやん、ぴーちゃんの4人が作戦を実行することにした。
作戦決行当日、夕方頃に学校近くにある小屋の陰に、僕とN男、ぴーちゃんの3人が集まった。
手には安っぽいロン毛のかつらだの、ゴリラのマスクだの、段ボール製のジェイソンの仮面だの。
N男に関しては、本物の鉈まで持って来ていた。
(今思うと本当に危険である・・・)
だが、もう一人のつーやんが来ない。
つーやんは親元を離れた児童施設で暮らしていたので、なかなか抜け出せなかったのかも知れない。
辺りが暗くなり始めた頃、川センがビデオカメラを持って玄関に入っていくのが見えた。
「あっ、作戦失敗だ!」
全員がそう思い、それから十数分後、おもちゃのマシンガンを抱えて僕たちの前に現れたつーやんを皆が攻めたてた。
すると、N男があることを思いついた。
「じゃあ、帰ろうとする川センを脅かすのはどうだ?」
「それいいな!」と満場一致で決まり、僕たちは玄関先に植えてある木の陰で川センを待ち伏せすることにした。
近くの道路から車の音も聞こえ、夜でも不思議と怖くなかった。
夜9時頃、川センの足音が聞こえてきた。
2階から下りて来る音だ。
「来たか!!」
全員が息を殺す。
一段一段、ゆっくりと撮影しながら下りているようだ。
僕はジェイソンの仮面をつけて、その時に備えた。
すると突然、川センの足音が止まった。
「まさか気付かれたか?」
・・・と思い、そっと玄関を覗くと、川センが階段を見上げて立ち止まっているのが見えた。
「何してるんだ?」
僕たちがそう思っていたら、川センはいつも生徒に話しかける時の感じで楽しそうに喋った。
「おやすみ、ユキちゃん。バイバイ」
僕は黙ったまま一目散にその場から走って逃げた。
他の3人も同じように逃げた。
なぜ逃げたのか、自分でもよく分からない。
ただ、物凄く気味の悪い何かをその一言に感じた。
そのまま家に帰った僕たちは、誰ひとり欠けることなく次の日に学校で合流した。
ただ、あの時の話は誰もしようとはしなかった。
川センもいつもの調子で部活に現れた。
後日開催された肝試しそのものは全然怖くなくて、川センが用意した余興のビデオもただ淡々と夜の学校の人体模型や美術室の絵画を映しただけの物足りない内容だった。
そして、みんなが噂していて確実に怖がるであろう例の階段・・・。
そこの映像は一つも流されず、肝試しのコースからも外されていた。
一体、あの階段には何があるのだろう・・・。
(終)