お盆やからそんな事もあるやろうけど
俺が高校二年生の時の話。
夏休みに入った途端、髪を染めて毎日をエンジョイしていた。
そして、お盆の時期に母の実家へ行くことになった。
場所は九州宮崎県の某所。
母いわく、かなりの田舎との事。
でもちょうど暇を持て余した時期だったので、家族皆で行くことになった。
家族構成は父、母、俺、妹、弟、妹の六人。
父が運転する車で出掛けた。
こんな体験をした
長旅の為に途中で酔ってしまったりと色々あったが、本州と九州を繋ぐ関門海峡で休憩と小腹を満たしてから、無事に宮崎県に突入。
夜に出発した為、宮崎の市街地の都会を抜けた頃には青空が広がり、夏独特の湿度と暑さが充満していた。
野を越え山を越え、民家もポツポツになって行く中、「あそこに見える山の近く」と母が言う。
まだまだ遠い。
地元界隈では『神様に一番近い場所』と呼ばれ、わりとそんな話もある町との事で、心霊関係が大好きな俺はワクワクしていた。
車で寝てしまっているうち、起きたら婆ちゃんの家に着いていた。
婆ちゃんの家は、よくある昔ながらの日本家屋。
植木に囲まれた中に庭が広がり、10メートルほど歩くと玄関。
到着当日は疲れていたのもあり、遊びにも行かずに皆で宴会に。
親戚の人も来て、どんちゃん騒ぎだった。
みんな酔っ払ってきた頃、焼酎を割る氷が無くなったので俺が買い出しへ行く事になった。
しかし、外は街灯が無く真っ暗。
足が無いと言うと、「それなら原付で行け」と。(飲酒ですやん・・・)
それにヘルメットも無いと言えば、「代わりにタオル巻いて行け」と。
さすがは田舎というのか、全く人に会わずにコンビニで買い物をして戻った。
その時に通ったトンネルが、とても暗かったのを覚えている。
原付のライトがあるのに、暗闇に消されている感じ。
そんなこんなで宴会も終わり、神棚が不気味な大広間で皆で川の字になって寝た。
翌朝、朝飯を食べている時に、近くに川があると教えてもらい泳ぎに行くことに。
歩いて10分ほどだったので、水着に着替えてから家族で向かった。
林道を歩いてると、川の音が聞こえる。
夏の蒸し暑さが全く無く、木漏れ日が気持ち良いぐらい。
途中には下りの道がちゃんとあり、石の敷き詰まった河原に到着。
そんなに深くないところで弟達と遊んでいた。
危険は無いと思ったのか、それとも飽きたのか、父と母が上流に行くとの事。
「ちゃんと弟達を見とけよ」と釘を刺され、面倒臭いと思いながらも涼しげな時間を感じていた。
ちなみに、弟達は3人共まだ小学生。
川を挟んだ向こう側は林になっていて、ちょうど川の真ん中に日差しが入って気持ち良かった為、そこに俺は佇んでいた。
足首ぐらいまで水に浸かって。
すると突然、「おぎゃぁおぎゃぁ」と赤ちゃんの鳴き声が聞こえた。
それも二回だけ。
川の真ん中にいたので、左右の林のどっちから聞こえたか分からなかった。
少しビビったせいか、川の水が異様に冷たく感じて川からあがった。
足首まで浸かっていたけれど、まるで氷水につけた後みたいに冷たく感じた。
その時、ちょうどタイミング良く両親が戻ってきたので、「飯食いに帰るかー」と帰宅。
夜はまた、例の如く宴会にて泥酔で就寝。
その日、母と布団が隣だったので、横になりながら色々話していた。
地元に住んでいた頃の話、親戚の話、地元の白蛇の神様の話。
ちょうど白蛇の神様の話をし始めた時に、足元のぼんぼりが突然に点いた。
足元には神棚があり、その明かりが左は消えていて右だけが点いていたが、その左側が点いた。
「なんや、接触不良か?」
夜中にビビらせるなよ、と思いながらも白蛇様の話を聞く。
話し終わったら次は右側が消えた。
神棚の明かりは話す前と逆になった。
「お盆やし、神様が通って行ったんやな」と母。
そういうもんか、と妙に納得して寝た。
その夜、酒を飲み過ぎたせいか夜中に目が覚めた。
最初は天井が明るく見えたので「朝かな?」と思ったけれど、よく見るとぼんぼりだった。
「反対向くとかどれだけ寝相悪いねん・・・」と自分で思いながらも、戻ろうと起き上がった時、目の前に丸まった赤ちゃんが居た。
確か、裸だったと思う。
その時に初めて、「人間は本当にびっくりしたら二度見するんや」と思ったけれど、二度見したらお供え物のスイカに変わっていた。
昼の川での鳴き声を思い出したが、母の「お盆やからな」とい言葉を聞いていたおかげで、また変に納得して寝た。
翌日、帰る日。
滅多に会わない孫達との別れに、淋しそうな婆ちゃん達に後ろ髪惹かれながらも車が出発。
「楽しかったなあ」なんて言いながら、弟達はすぐに爆睡した。
途中、とても暗かったトンネルを通った時、足首が冷たくなった。
それも左側だけ。
「捻挫かな?」と考えていたけれど、ずっと冷たいまま。
堪らず母に「足首冷たい」と言う。
「じゃあタオル巻いとき。すぐ治るやろうから」との事。
俺は我慢したまま寝ることにした。
そして、関門海峡でまた飯を食って本州に渡り切った頃、足首が冷たく無くなっている事に気付く。
母に言うと、「なんか変なもん憑いてても、地元からは離れへんわ(笑)」と軽くあしらわれた。
そして帰宅翌日、「無事着いたよ」と婆ちゃん達に電話した。
俺が話す時に、「こんな体験した」と赤ちゃんの話をしたら、婆ちゃんが教えてくれた。
あの川は昔『子洗い場』とも呼ばれていて、洗濯や風呂とかに使っていたという。
水がとても綺麗から。
「その時に流れてしまった赤ちゃんが、あんたの足首に掴まってたんやろなあ」との事。
そして、「気づいてくれないから目の前にも出たんじゃないか」と。
それを聞いて、なるほど・・・と納得。
ちょっと切ない気持ちになりながらも冥福を祈った。
でもやっぱり婆ちゃんも最後に、「お盆やからそんな事もあるやろうけど、またおいでね」と言った。
(終)