大好きだったけど幽霊は怖いわ
その人は私が前に勤めていた会社のOLさんで、名前を明子さんという。
彼女の家は大家族で、子供部屋は弟や妹たちが使っており、彼女は小学生の頃からおばあちゃんの部屋で一緒に寝ていたそうで。
そして彼女が中学1年の春、そのおばあちゃんが亡くなった後もその部屋で一人で寝ていた。
その年のお盆のある日、寝ていると、ふと真夜中に目が覚めてしまった。
「あれ?なんでやろ?」
そう思っていると、部屋の外の廊下が騒がしい。
しばらくして、10人くらいがざわざわ言いながらこちらに歩いて来る。
「こんな夜更けに何?」
すると、足音が部屋の前で止まった。
そして襖がスーッと開いて部屋に入ってきて、布団の周りに立って見下ろしている。
ずっと目を閉じていたが、はっきりとわかった。
「何?なんやの?」
そう思っていると、枕元に立っていた人物がこう言った。
「あきこちゃん」
彼女は「あっ!」と思った。
そして、「おばあちゃんや!おばあちゃんの声や!」と。
枕元の人物は、「あきこちゃん、あきこちゃん」と彼女を呼び続ける。
でも、彼女はずっと目を閉じて、寝ている振りをしたそうで。
そんな話を聞いていた私は、「なんで?大好きなおばあちゃんだったんでしょ?」と言うと、「大好きだったけど、幽霊は怖いわ」と彼女は笑った。
5分ほど経った頃、呼ばれても寝た振りを続けていると、足元に立つ人物が「よう寝てはるわ」と言うのが聞こえた。
そして「フー」とため息をひとつついてから、「しゃあない、行こか」と言って皆がゾロゾロと出口の方へ。
襖が閉まり、廊下の途中で気配はなくなった。
そんな彼女も結婚し、去年の2月に赤ちゃんが生まれた。
半年後の8月、私はこんなメールを送った。
『今年のお盆には、おばあちゃんがひ孫を見に来るかもね』
彼女からはこんな返事が返ってきた。
『来なかったよ。でも、たまに赤ちゃんが天井を見て笑ってるから、おばあちゃんが相手してくれてるんかも』
(終)