山で見つけた養魚溜池の跡地と一軒の小屋 2/2
「玄関開けね?空気入れ替えようぜ」と、ヨシマサが入り口へ。
直後に「うわっ!」と大声。
「どうした?」と見ると、土間には魚の骨が散乱していた。
「魚・・・食ってるよ。でも結構新しくね?」
魚は身を綺麗にこそぎ取ったように頭と骨だけになっていたが、そんなに古いものではなかった。
目玉まで綺麗にくり抜いてある魚の頭を見ているうちに、言葉に出来ない不安が形になってくる。
俺たちは無言になった。
この小屋は打ち捨てられた廃屋ではなく、まだ出入りしている人がいるのだ。
そして、その人は池の魚を食っているんだ。
こんな火も水もない所で料理して・・・。
急に怖くなってきた俺たちは、3人でゆっくりと埃のたまった部屋を見回した。
外はまだ大雨。
「あれ、中に何が入ってるんだろ?」
日に焼けた観音開きの扉に近づく。
これまた強烈に臭い。
鼻をつまんで、「よし開けてみようぜ!」と言って3人で扉を開く。
中身はボロボロの仏壇だった。
朽ち果てた、という表現がぴったりの仏壇。
中には、3つの壷と並んで3人の子供の写真が立てかけられていた。
でもおかしい。
時代がバラバラなのだ。
白黒の昔風な写真と、わりと新しいカラー写真。
でもそのカラー写真の子供の顔、どう見ても死んでいる。
白目を向いている子供のポラロイド。
首には紐巻きが付いていた。
帰ろうか、いや、逃げようかと俺は言いたかった。
けれど、それを言うとギリギリで保っている理性が吹っ飛んでしまいそうで。
でも、ここに居てはマズイ。
少なくとも俺たちが今見ているものは、この持ち主にとって都合のいいようなものではない、子供心にそう考えていると俺はあることに気づいた。
燃え残りの線香の緑が鮮やかだ。
灰がまだ真新しい。
俺が扉を閉じようとすると、タカが「うわぁ!!」と絶叫した。
「こっ・・・こ、これ・・・」
タカが指差す先にある仏壇の横に、まだ準備中とばかりに立てかけてあった4枚目の写真立てが。
写真はまだ無く、代わりに白い紙が入っていて、それには鋭い釘みたいなもので書かれた赤い文字で『フジイソウイチ』とタカの兄貴の名前があった。
「・・・何で?・・・何で?!」
パニック状態のタカ。
直感的に俺は、ここにある写真はこの小屋に入った子供の名前と行く末なのだと悟った。
「さすがにこれはヤバい、逃げるぜ!」
そう言って、魚の骨が散乱していた土間へ。
力を入れて勢いよく玄関を開け・・・開かない。
「何で?」
「鍵、鍵開けて!」
「鍵開いてるって」
「開かないぜ?3人で引っ張ろう!!」
3人で引き戸を引くも動かない。
「待って、下!下!」
ヨシマサが叫ぶ。
見ると、玄関の引き戸は開かないように無数の釘で打ち付けてあった。
俺たちは完全にパニック。
ネズミ捕りのカゴに入ったネズミ状態。
とにかくもう、何がどうでもいい。
ここにいたら恐怖で潰されてしまうとばかりに、窓から我先に争って脱出。
3人で転びながらめっちゃくちゃになって山道を駆け下り、信じられない速さで下山した。
土砂降りの中をチャリンコに飛び乗って、一番近いタカの家へ向かった。
家に着くなり、「母ちゃん大変だ!兄ちゃんが殺される!!」と、先週からの顛末を母ちゃんに説明。
最初は訝しがっていたタカの母ちゃんも、タカのあまりの剣幕に、「兄ちゃんはまだ帰って来てないし、お父さんに相談してみよう」ということに。
俺たちはそこで分かれ、それぞれ帰宅した。
後で聞いたところによると、タカの親父を含む数人の大人が、タカの兄貴の案内の元、小屋へ行ってみたそうだ。
が、例の仏壇には写真はおろか何もなく、俺たちの見間違いということになった。
そして奇妙なことに、俺たちが釣りをしようとした池の魚は、水面を覆いつくすように白い腹を見せて死に絶えていたのだとか。
後日談
俺が無くしたと思っていた100円ライターが、とある朝に学校へ行こうと家を出ると、門柱の上に置かれていた。
もちろん、ライターには名前は書いていないし、何処で無くしたかも覚えていない。
池に忘れてきたのか?と漠然と考えていたが、まあライターなら大丈夫と思って忘れていた。
だからこそ、ある朝に不意に置いてあった時は心底震えた。
あの池と小屋の持ち主は、俺たちはその時は山姥だとかそんな化け物じみた人を考えていたが、実は案外身近な人だったのかもしれない。
(終)
拉致されなくて良かったな