店の鍵束に付いていた古ぼけた小さな鍵
大学生の頃、小さな個人スーパーでバイトをしていた。
そのスーパーは朝の6時から開けていて、俺は早朝勤務だった。(朝の6時~大学に行くまで)
小さなスーパーなのに時給が良く、一限の講義が無い日はほとんどシフトに入っていた。
しばらくして開店作業を任されるようになり、店の鍵を預かることになった。
渡されたキーホルダーには、裏口の鍵、シャッターの鍵、入り口の鍵などと一緒に、古ぼけた小さな鍵が付いていた。
店長に何の鍵か聞いたのだが、適当にはぐらかされてしまった。
だが、開店作業には全く使わなかったし、倉庫か何かの鍵だろうと特に気にしなかった。
あの人ね、ここの社長の・・・
しばらく経ち、いつものように勤務していると、裏口で叫び声が聞こえた。
店の中には俺とパートのおばちゃんの二人しかいない。
一緒に作業中だったので、不審者かと思って裏口へおばちゃんと二人で行った。
するとそこには、いかにも長い間洗っていないであろう、ボサボサの長髪の爺さんがいた。
爺さんは垢だらけのパジャマのような服の上からボロボロのレインコートを着ていて、人形を抱いたまま呻(うめ)いていた。
俺は何が何だか分からず絶句していると、パートのおばちゃんは冷静に「鍵を貸して」と言った。
事情がよく分からないまま鍵の束を渡すと、おばちゃんはそのまま爺さんを店の裏の小さい倉庫に引きずっていった。
そしてあの古ぼけた小さな鍵で倉庫を開けると、爺さんをそこに押し込み、また鍵をかけた。
爺さんはしばらく内側から扉を叩いていた。
あまりのことに呆然としている俺を見て、パートのおばちゃんが言い難そうに言った。
「あの人ね、ここの社長のお父さんなの。認知症が進んでたまに店に来るのよ。昼間や夜は店長がいるからいいんだけど、朝は店長が来るまでここに入れてるのよ」
「もう社長も世話する気がないらしくてね、お風呂も入れずにほったらかしなんだって。ご飯もあんまりあげてないらしくてね、たまに夜に来た時に惣菜のてんぷらを食べたりするみたい」
自分の父親にボケたとはいえ、こんな仕打ちが出来るのか・・・と思ってゾッとした。
爺さんは店長が来るまで倉庫の中から時々泣き声のような叫びを上げていた。
そんな社長や店長が怖くなり、俺は直後にバイトを辞めた。
(終)