千体坊主「雨」 2/4

但し、条件が三つあるらしい。

 

まず一つは、

 

人形を作る時に

中に詰める方の紙を、

 

自分の唾液

(ホントは血液の方がいいらしいが)

で、ほんの少し湿らせる。

 

二つ目に、

 

作っている人は千体坊主完成まで

絶対に家の外に出ないこと。

 

この場合はKが作っている人になる。

(僕は別に出てもいいらしい)

 

途中で出たらなんか悪いことが起きる、

とのこと。

 

三つ目は、

 

人形を千体吊り終えたら、

とある『うた』を歌うこと。

 

千体坊主が完成し、

無事うたを歌い終えれば、

 

次の日の天候は

その人の望んだものになる、

 

らしい。

 

K自身も知ったのはネット上の

とある掲示板だという話なので、

 

あまり期待はしてないそうだけども。

 

僕もオカルトが嫌いではないので、

興味はある。

 

給料も出るということなので、

だからやってみようと思ったのだが、

 

予想に反して時間が掛かる掛かる。

 

はっきり言って最後の方は、

かなり後悔していた。

 

ちなみに、最後に歌うという

うたの内容は、

 

三番まであって、

晴れ用と雨用の二種類あると言う。

 

それ以上は教えてもらってない。

 

てるてる坊主の歌というと、 

僕が知るのは童謡くらいだけども、

 

関係あるのだろうか。

 

そうこうしているうちに、

八百体目の人形を天上に吊るし終えた。

 

もうKは九百体に王手をかけ、

 

カウントダウンが始まるのも

そう先のことではないだろう。

 

但し、ここまで来るのに相当長かった。

 

正確に言えば、

食事と休憩も入れて十六時間くらい。

 

「うーん・・・、眠たーい寝たーい

夢見たーいー」

 

K「さっきからうっせーな。

ダイジョーブだって。

 

人間三日くらい寝ずに働いたって、

死にゃしねえんだからよ」

 

「一体三円って、

絶対割に合わない気がしてきた・・・、

 

時給にしたら二百円以下じゃん」

 

K「今頃おせえよ」

 

しかし、Kだって昨日から

寝てないはずなのに、

 

明らかに僕より元気なのが

不思議だ。

 

そうこうしているうちに、

 

天井に吊るされた『ずうぼるてるて』の

総数が九百五十を越えた。

 

残り五十。

 

頭上を埋め尽くす、

逆さに吊るされた白い人形。

 

下から見上げれば、

 

まるで僕らの方が天井に

へばり付いているかのような錯覚を覚える。

 

錯覚してる間に残り十体だ。

 

Kも一緒に天井に貼り付けながら、

カウントダウンが始まる。

 

・・・997・・・998・・・999、

 

・・・1000。

 

「おおー!」

 

その瞬間、僕は思わず

感動の声を上げていた。

 

消費ティッシュペーパー、千と六枚。

 

(※途中鼻かんだから。

最後で『六枚足りねえ』ってなった)

 

タコ糸、約三百メートル。

 

セロテープ、丸々一個と半分。

 

天井の消費面積、

六畳間まんべんなく。

 

総消費時間、

約十六時間と四十分。

 

千体坊主、完成。

 

K「うわ、きめえー」

 

感動の千体坊主完成を経て、

Kがまず発した言葉はそれだった。

 

僕はかなり本気で、

 

バイト代要らないから

ぶん殴ってやろうかなこいつ、

 

と思った。

 

K「ま、何にせよ。

後はうたを歌うだけってか。

 

あー、後は一人でやんよ。

 

疲れただろ、

ワリーなこんな時間までよ。

 

・・・ほれ、バイト代」

 

そういってKはポケットから

財布を取り出すと、

 

ちょいと人差し指を舐めて、

中から千円札を三枚取り出した。

 

もはや癖になっているようだが、

やめれ。

 

K「ってことで。今日は帰って、

良く寝るこった」

 

「・・・今日一限目からあってだね。

テストも近いから寝れん」

 

僕の言葉にKは「うはは」と笑う。

 

K「マジかよー。でもまー、

人間三日寝ずに働いたって

死にゃしねえからさ。

 

だから頑張れ若人よ・・・

つーわけで俺は昼まで寝るわ。

 

明日の天気を楽しみにしとけ。

そんじゃ、おやすみ」

 

そう言ってKは部屋の隅に立ててあった

折りたたみベットを広げると、

 

その上に、バフン、と身を投げた。

 

ポーズじゃなくて本当に眠る気だったらしく、

Kは十秒で死体の様に静かになった。

 

僕は最後に何か言ってやろうと思ったけど、

結局、溜息だけをついて部屋を出る。

 

その際に、一度だけ振り返って、

再度部屋の様子を確認してみた。

 

千体の『ずうぼるてるて』の下で、

気持ちよさげに眠るこの部屋の住人。

 

不思議と異様だとかは思わなかった。

 

やっぱり、夜なべのせいで

常識がどこかに転げ落ちたのだろうか。

 

僕は一限目の講義を受ける前に、

せめてコーヒーを一杯飲んどこうと思った。

 

まぶたが重い。

 

学生寮から外に出ると、

刺さる様な陽射しが出迎えてくれた。

 

(続く)千体坊主「雨」 3/4へ

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