千体坊主「雨」 3/4

この調子で本当に明日、

雨なんて降るのだろうか。

 

講義中も、ふとそんなことを考える。

 

案の定その日の講義は、

眠気と相まって、

 

さっぱり頭に入って来なかった。

 

昼からの講義で

僕の隣に座ったSが、

 

S「眠たげだな。まさかとは思うが・・・、

一体何してたんだお前」

 

はい。てるてる坊主作ってました。

ゴメンナサイ。

 

何とかノートをとることだけに専念し、

ようやく全部の講義が終了。

 

わき目も振らずに家に帰ると、

 

ご飯も食べずシャワーも浴びずに

即効でベッドに倒れ込んだ。

 

完全に眠るまでに、

三十秒もかかってないと思う。

 

その時見た夢は、

 

今朝の新聞で見た四コマの『わたる君』と、

まるで同じ場面だった。

 

妹のチカちゃんがアイスに

手を伸ばそうとしている。

 

いけない。

 

それは君のお兄さんが持つ

知的好奇心から生まれた、

 

素晴らしい実験装置なんだ。

 

何とか止めようとしたのだけれど、

 

チカちゃん背に手を伸ばした瞬間に

僕は目を覚ました。

 

携帯が鳴っている。

かなり身体がだるい。

 

僕は壁に掛けてある時計に

目を向ける。

 

午前零時過ぎ。

真夜中だ。

 

電話なんて無視しようかとも思ったけど、

一応相手を確認する。

 

Kからだ。

僕は無視することにした。

 

・・・止まない。

観念して電話に出る。

 

文句を言ってやろうと思ったけど、

それより相手の声の方が早かった。

 

K『おい、雨が降ってるぞ!』

 

中途半端に起こされたので、

まだ片足が夢の中だった。

 

だから僕は、

 

中々Kの言葉の意味を

掴むことが出来なかった。

 

そりゃ雨だって降るだろう、

降らなきゃ困る。

 

今年だってそれで困っている人が

たくさんいるのだから。

 

そんなことをたっぷり数秒考えて、

僕はやっとその意味に至った。

 

「え、ホント!?」

 

僕は慌ててカーテンの隙間から

窓の向こうを見やる。

 

外は晴れていた。

 

僕は目をこすってもう一度、

星空の下を注意深く見る。

 

比較的明るい夜だ。

紛れもなく空は晴れている。

 

「・・・晴れてんだけど」

 

こんなつまらない冗談のために

起こされたのかと憤慨しかけるが、

 

次いで聞こえたKの声は、

普段と違って割と真剣なものだった。

 

K『すまん、聞こえねえ。

もうちょいデカイ声で喋ってくれ』

 

「晴れてんだけど!」

 

K『ああ、んなこた分かってる。

それでも、雨が降ってんだ』

 

本格的に意味が分からない。

 

晴れてるのに雨が降ってる。

どんな状況だそれ。

 

「それって、キツネ雨ってこと?

Kの寮の周りだけ?」

 

K『は、キツネ雨?・・・違う。

雨は降ってない』

 

少しイラっとくる。

僕は眠たいのに。

 

「あんさあ、ちょっと意味が・・・」

 

K『音だけなんだよ』

 

Kは、はっきりとそう言った。

 

K『雨音だけが聞こえる。

今外、雨降ってないよな?だろ?

 

なのに聞こえるんだぜ。

耳塞いでもまるで止まんねえし。

 

最初は小雨程度だったけど、

何かドンドン強くなってる気がするし。

 

たぶんな、ちいとやべえよ、これ』

 

これは決して、

僕をからかっているのではない。

 

これまでの付き合いから

僕にはそれが分かった。

 

Kは嘘をついていない。

 

本当に雨が降っているのだ。

Kの中で。

 

K『でさー。コレ非常に言いにくいんだけど、

まー、頼みがあんだよ』

 

「・・・何?」

 

Kは本当に言い辛いのか、

電話の向こうで数秒間を置いた。

 

K『今からさ、バイトしねーか?

材料はもう揃えたからよ』

 

その言葉で僕は全てを承知した。

 

「分かった・・・、行くよ」

 

電話を切り、そのまま家を出る。

 

そうして愛車のマウンテンバイクに跨る前に、

僕は友人のSに電話をした。

 

真夜中だがきっと起きてる。

 

予想通り電話に出たSに、

僕は少し迷った挙句、

 

正直に事の次第を話した。

 

「Kがバイト代も出すってさ」

と言ったのが唯一の嘘だ。

 

しかしSは興味も無さげに一言、

 

S『てるてる坊主のせいで

幻聴が聞こえるとか、

 

俺はそういった類は信じていない。

 

あと今はテスト期間中だぞお前。

二日も無駄にすんなよ』

 

僕は「そっか・・・。うん、分かった」

と、電話を切った。

 

僕はSとも付き合いが長いから分かる。

そう言ってくるだろうとは思っていたんだ。

 

(続く)千体坊主「雨」 4/4へ

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