Sとの出会い 4/5

K「うおおっ!?」

 

誰かが奇声を上げた。

悲鳴では無く、奇声。

 

Kが戻って来たのだ。

 

彼は僕の背後に居るナニカを

見たに違いない。

 

ただ、その奇声のおかげで、

 

僕は自身のコントロールを

取り戻した。

 

足が動く。

 

僕はわき目も振らず扉へダッシュし、

病室を飛び出た。

 

その際にKと肩がぶつかったけれど、

「ごめっ」と一言、

 

構うこと無く、一階ロビーへ続く

階段を駆け降りる。

 

Kも後から走って

追いついて来た。

 

受付の中に飛び込み、

入って来た窓から外へと出る。

 

それでもまだ安心出来ず、

僕とKは走って走って、

 

すごい速さで門をよじ登り

飛び越えた。

 

車のドアを開き、

中に滑り込む。

 

そこでようやく僕は、

 

病室からずっと止まっていた

呼吸を再開した。

 

Sが突然の僕らの帰還を、

 

驚いた様な呆れた様な

目つきで見ていた。

 

僕は息を整えるので精一杯。

 

Kは脂汗を浮かべながら、

 

K「あーやべえ、あれはやっべえ」

 

と何度も繰り返していた。

 

シートに深くもたれかかる。

怖かった。でも、助かった。

 

全身の力が抜ける。

 

例えば、ホラー映画では

この瞬間が一番危ない。

 

コツ・・・コツ・・・

 

身体中の産毛が

逆立つような感覚。

 

反射的に飛び起きた。

誰かが車をノックしている。

 

僕が座る助手席の窓。

僕はその方向を見てしまった。

 

白い手がガラスの下の方を

叩いている。

 

K「だあ、S、車!」

 

Kが叫ぶ。

彼にも見えたらしい。

 

二人がパニック気味になる中、

 

ただ一人Sだけは

怪訝そうな顔をしていたが、

 

何も言わずエンジンをかけた。

 

例えばホラー映画では

こういう場合、

 

得てしてエンジンが

かからないものだが、

 

そんなことは無かった。

 

車はUターンするために

一度バックする。

 

見えた。

 

それは車イスだった。

 

それと、車イスを動かす

白く細い手。

 

僕に見えるのはそこまでだった。

 

後は何も見えない。

誰が乗っているのかも分からない。

 

ただそれが何であれ、

生きた人間でないことは確かだった。

 

K「くっそが!

病院外まで追ってくるとか・・・、

 

おま・・・っ・・・、

ルール違反だろが!」

 

Kがその車イスに向かって叫ぶと、

それに呼応するかのように、

 

滑る様にイスがこちらに向かって来た。

 

K「だああ、S、もっと飛ばせよ!」

 

走り始めた車の速度は、

時速四十キロ。

 

あの車イスは、

それに付いて来ている。

 

僕の頭は恐怖のためか、

それとも単に混乱していたのか、

 

あの車イスにはたぶん

ターボが内蔵されているのだな、

 

などとそんなことを思っている場合では

もちろん無いのだけれど。

 

K「車イスは車だけど、

車じゃねえぞオイ!」

 

Kも同じ気持ちだったらしい。

 

そして彼が後ろに向けて

ツッコミを入れた瞬間、

 

急ブレーキと共に

僕らの乗った車が停止した。

 

それがあまりに突然だったので、

 

後ろを向いていたKは慣性の力で

後頭部を座席にしこたま打ち付ける。

 

僕はいつもの癖で無意識に

シートベルトをしていたので助かった。

 

止まった。

 

止まったら追い付かれる。

 

「Sく・・・、だ、S君?」

 

慌てふためきながらSを見ると、

彼はちょっと上を向いて、

 

あーう、と

長いため息を吐いた。

 

あくびだったのかも知れない。

 

S「・・・俺には見えねえけど。

まだ付いて来てんのか?そいつ」

 

僕は後ろを向く。

 

居る。

十メートルくらい後方。

 

間違いなく、

近づいて来ている。

 

僕は何度も頷く。

 

S「ふうん。・・・分かった」

 

とSが言った。

 

それから後部座席の方を

振り返り、

 

S「お前ら、これから三十秒くらい、

ずっと前見てろ。フロントガラスだけだ。

 

目を逸らすな。

逸らしたら死ぬってぐらいに思っとけ」

 

Kはまだ後頭部強打のダメージから

回復していない様だった。

 

虚ろな瞳でSの方を見ている。

 

僕は訳が分からず、

 

あの車イスが来ていないか

確かめようと後ろを向きかけた。

 

すさまじい摩擦音。

 

車が急発進し、

 

僕の身体は誰かに

体当たりされたかのように、

 

シートに押し付けられた。

 

僕は驚いて視線を前方に移す。

Sが限界までアクセルを踏み込んだのだ。

 

速度メーター。

 

この車はミッション車のはずだったが、

それでも何の支障も無しに、

 

速度はあっという間に

時速百キロを越えた。

 

前方の景色が流線となって

次々に後方へとカッ飛んで行く。

 

ここは高速じゃない。

国道だ。

 

道幅はそれほど広くない。

カーブもある。

 

対向車のドライバーが、

 

口をあんぐり開けるさまが

現れて消えた。

 

カーブの度にタイヤが滑る。

ドリフト?

 

訳が分からない。

 

後方に遠ざかるクラクション。

直線。120キロ。S字カーブ。

 

あ、死ぬ。

 

僕は前だけを見ていた。

身体が硬直して目を離せなかった。

 

実際100キロ以上出していた時間は

ほんの十数秒程度だっただろうが、

 

あの時の僕にはその十数秒が、

一分にも三分にも感じた。

 

そのうち車は減速して、

 

まるで何事も無かったかのように

路肩に停まった。

 

(続く)Sとの出会い 5/5へ

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