骨董男

 

家は昔質屋だったと言っても、

じいちゃんが17歳の頃までだから、

 

私は話でしか知らないのだけど、

結構面白い話を聞けた。

 

その日の喜一は店番をしていた。

 

喜一がレジ台に顎を乗せて、

 

晴天の空を恨めしそうに

見上げていた時、

 

「もし、坊や、

ここの主はどこかね?」

 

喜一はビクっと

体を大きく跳ねらせた。

 

全く人の気配が無かったのに、

急に太った男が店の前に現れたのだ。

 

「えっと、

 

おやじは骨董市に出かけてて、

夜まで戻らないよ」

 

喜一の言葉に、

男は急に挙動不振になった。

 

「どうしよう・・・どうしようか?

・・・いやしかし・・・」

 

男は何やら、

ぶつくさ言い出した。

 

男はもう水無月(6月)

なるというのに、

 

大きな虫食いだらけの

コートを羽織り、

 

帽子を深く被っていた。

 

男の成りを見て喜一は、

 

こいつは金に困ってガラクタを

押し売りに来たタイプだな。

 

動きがせわしないのは、

 

きっと取立にでも

追われているのだろう、

 

と喜一は考えた。

 

男の独り言は、

まるで相談の様。

 

「どうする?

 

しかし時間が無いぞ、

この子に任せてはどうだろう?

 

でもこんなガキに

全てを任せるのは・・・」

 

喜一は男の態度にイライラし、

 

「おじさん、

冷やかしなら帰ってくれよ。

 

今は買い取り出来ないからさ」

 

喜一がきつく言うと、

 

男はガラクタが溢れ出る

パンパンのカバンを悲しげに見つめて、

 

無言で出て行った。

 

その日の夕方、

 

「おい、キー坊」

 

店に駐在さんがやって来た。

 

「な、ななな、何、

俺、何にもしてないよ」

 

身に覚えは無いが、

喜一は体を強張らせた。

 

「はは、お前に用はねぇよ。

おやじさんいるかい?」

 

今日のおやじは人気者だ。

 

「夜まで戻らないけど、

親父がどーしたの?」

 

喜一の声に、

 

「そうか、困ったな。

 

たぶんお前さんちの落とし物だと

思って持って来たんだけどよ、

 

確認のしようがねぇな」

 

髭をさすりながら駐在さんが

荷車で運ばせた物は、

 

昼に来た客の持ち物だった。

 

持ち物だけじゃない。

 

服、靴、帽子全てだった。

 

「こんな骨董品扱ってるのなんて、

お前さんちぐらいだろう?

 

でも、落とし物としては

不自然でな。

 

カバンの中だけじゃなく、

 

服の中にまでパンパンに

骨董品が詰まっててよ。

 

帽子の中にまでだぜ?」

 

喜一はごくりと唾を飲んだ。

 

何かが起こった。

 

もしくは、

起こっていると感じたからだ。

 

駐在さんには見覚えがあると言い、

 

荷物を店で預かり、

一つ一つを広げてみた。

 

乱雑にガラクタが詰まっていた

カバンの中から一つだけ、

 

立派な桐の箱が出て来た。

 

「へその緒か?」

 

喜一は箱の中が気になったが、

 

恐ろしさもあったため箱は開けず、

おやじの帰りを待つ事にした。

 

夜になり、

おやじが帰って来た。

 

喜一は店から居間に入り、

玄関のおやじの元へと走った。

 

「おやじ!ちょっと来て!」

 

喜一の声に、

 

ほろ酔いだったおやじの

目つきが変わる。

 

店に入り、

ガラクタの山を見るなり、

 

「そうか、そうだったか・・・

喜一、俺宛の郵便持って来い」

 

喜一が何を言うわけでもなく、

 

おやじには何か分かったのか、

喜一に命令した。

 

おやじはここ3日、

 

他県の骨董市(一種の寄合)

顔を出していたため、

 

2日分の郵便物が貯まっていた。

 

おやじは一つのハガキを見つけると、

ため息をつき、

 

「すまなかったなぁ・・・」

 

と、ガラクタに向かって

ぽつりと言った。

 

おやじは数ヶ月程前、

旧友の家に招かれた。

 

古い納屋を近々取り壊すため、

 

中の骨董品を鑑定して欲しい

と言われたのだ。

 

高値で売れれば、

 

骨董品を頭金に納屋を新調

しようとしていたのだが、

 

どれも商品になる様な物は無く、

 

旧友は納屋の新調を先延ばしに

する事にした。

 

ガラクタばかりだったが、

 

おやじは何かを感じたのか、

納屋を取り壊す際、

 

「骨董品を引き取らせて欲しい」

 

と言い、

旧友も快く承諾した。

 

ハガキは、

 

『言い忘れていたが、

取り壊しを2日後に行う』

 

という内容の物。

 

あのガラクタ達は、

納屋ごと捨てられるのを恐れ、

 

おやじの約束を信じ、

ここまでやって来たのだ。

 

小さな小さな力を集め、

 

ぎゅうぎゅうになって

ここまで来たが、

 

おやじは留守。

 

そして、

道端で力尽きたのだった。

 

「これは?」

 

親父が桐の箱に気付いた。

 

「こんな物、あいつの家で

見なかったが・・・」

 

親父が桐の箱を開けた。

 

「こいつは・・・凄いな・・・」

 

中には綺麗な石が入っていた。

 

何かの宝石の様だ。

 

自分達がお金にならない事を

分っていたのか、

 

喜一にはそれが、

引き取り金に見えた。

 

「はは・・・律儀なもんだな」

 

そう言うと、

おやじは一つ一つを磨きだした。

 

ガラクタの中には、

 

何に使うのか分らないような

古い道具まであった。

 

修理された跡があり、

大切に使われていた事が分かる。

 

喜一は後悔した。

 

昼間の事を。

 

喜一は、ガラクタを丁寧に磨く

おやじの背中を見て、

 

物も人にも大切に接すれば、

 

いつか自分にもこんな素敵な

奇跡が起るだろうか?

 

そんな事を思いながら、

 

親父と一緒に遅くまで

ガラクタ達を磨いたのだった。

 

(終)

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