村里近くの丘で出会った少年
これは、石じじいの話です。
じじい曰く、「死者に会ったかもしれない」ということです。
ある日、村里近くの丘で、とても元気な少年に会いました。
快活でちょっとはにかむ、かわいい少年だったと。
少年は色々と自分の生活や周りの山のことを教えてくれて、じじいのことも尋ねてくるので、石を探していること、この辺りには珍しい石がある、と教えました。
すると少年は大層喜んで、「僕も見つけたい!」と目を輝かせていたそうです。
じじいは少年と山を下りて、少年が求めるので彼の家に立ち寄りました。
そこで、彼の祖父と祖母に会い、少しばかりの会話をしました。
この少年は、病気療養のために両親の元を離れて、田舎で自分たちと一緒に生活している、ということでした。
世間話をして、食事をいただいてから、少年と別れました。
その際に少年は「僕も石を見つけるよ」と言い、じじいは「また来年会おう」と約束をしました。
さらに少年は、「その時に珍しいキレイな石を持って来てあげる」と。
一年が経ち、じじいは少年の家を再訪しました。
が、少年には会えませんでした。
前年、じじいと別れた後に急に病みつき、回復すること亡くなったそうです。
また、じじいと会うことを楽しみにしていた、とも教えてくれた。
ちょっと感傷的になったじじいは、少年と出会った丘に立ち寄りました。
そよ風が吹く、清々しい夏の昼下がりだったそうです。
頂上に佇み、「人の人生などわからないものだ…可哀相に…」と考えていたそうです。
その時、急に後ろでガサッと音がしました。
じじいはすぐに振り向きましたが、誰もいません。
待っていても、その後は音がしない。
じじいはリュックに手を伸ばしましたが、その時にまたガサッと音がしました。
しかし、振り向くと何もいない。
その後は無音。
じじいは再びリュックに視線を戻して、じっと待ちました。
すると、ガサッと。
もう、じじいは振り向きませんでした。
すると、さらにガサッ、ガサッ、ガサッ…。
何かがゆっくり歩いて近づいて来ていると思ったそうです。
じじいは少し怖くなりましたが、我慢して顔を伏せていました。
その足音は、どんどん近づいて来ます。
でも、じじいは我慢しました。
そして、その足音はじじいの背後で立ち止まったそうです。
それでも、じじいは振り向きませんでした。
「どがいなかな?ええ石は見つかったかな?おっちゃんはキレイな石を持って来てあげたで。あげるけん、持っていったらええが」
背後の何者かは、何も答えなかったそうです。
「おじいちゃんらに会うて来たで。大変やったな。よう堪えたな。さてぇ、おっちゃんもそろそろ行こうまい。元気でおりんさいよ」
じじいはそう言って、少年へのおみやげとして持って来た青い石をそこに置いて、ゆっくりと立ち上がりました。
そして、やっぱり振り向かずに手を振りながら、そこを離れました。
足音は少しの間、じじいの後を付いて来たように思えたそうですが、その気配はすぐに消えたそうです。
セミがやかましく鳴いていることに、歩き始めて気がついたそうです。
私「それは、その男の子の幽霊やったん?お経とか唱えたん?」
じ「わからん、人みたいやったけど。お経は唱えなんだよ。唱えんといけんような相手とは思えんかったんよ」
私「その後、そこにまた行ったんかな?」
じ「行ったで。次の年も、その次の年もな。そやけどな、もうその足音ちゅうか人は来んかったい」
安堵したと同時に、寂しかったそうです。
(終)