2ちゃんねるの投稿の中には稀に・・・ 2/2
見てみるとすごく短い文章で、
恐怖体験を綴ったものでした。
「これが?」
洋子はちょっと拍子抜けしたみたいです。
別にそれが、
自分が今まで読んだ話の中でも
飛び抜けて怖いとか、
そんな風に思わなかったので。
むしろ、
読み流してたというか、
読んだことも忘れていたくらいでした。
それはよくあるパターンで、
夜中に金縛りに遭い、
目を開けたらそこには
髪の長い女の人が立っていた、
という話です。
なんか、
一気に馬鹿らしくなって、
洋子はそのままパソコンをスリープさせて、
もう遅いから寝ようと、
布団に潜り込んだのです。
恵美はまだその時は普通だったそうです。
明かりを消して眠りに落ちてから、
まもなく洋子は妙な物音で目覚めました。
隣の布団で、
恵美が後ろを向いて寝ながら、
う・・・ん、う・・・ん・・と、
小さく唸っているんです。
すごく苦しそうだったので、
「悪い夢でも見てるのかな。
もしかして、
寝る前にあんな話になったのが
悪かったかも」
と思って、
起こしてあげようかどうしようかと、
そのまましばらく見ていたそうです。
そしたら、
だんだん唸り声が止んで、
変わりに寝言を言ったんです。
「どうして・・・」
ぼそりとそう言ったと思ったら、
すぐにもういっぺん、
「どうしてわかったの?」
と、とても寝言とは思えない、
はっきりとした口調で言ったんです。
まだ向こうを向いているけれど、
もう起きたのかなと思って、
「何のこと?
すごいうなされてたよ?」
と言ったら、
恵美が突然、布団からむっくりと
起き上がったんです。
それを見た途端に、
洋子は背筋がゾッと冷たくなって、
目を開けたままその姿勢で
身動きが出来なくなったそうです。
起き上がって座った恵美の後ろ姿は、
ざらりと長い黒髪で、
背中が半分ぐらいまで隠れていたんです。
恵美はうなじが見えるくらいの、
茶髪のショートカットのはずなのに・・・
それに、
白い浴衣みたいなものを
着ているのです。
確か寝る前には、
洋子のヒョウ柄パジャマを
貸してあげたはずなのに・・・
洋子はもう頭がパニック状態でした。
(これは、恵美じゃない!
嫌だ、なんで、なんで?!)
恵美とすり替わったモノは、
ゆっくりと振り向きました。
見たくないのに、
洋子は目を瞑ることが出来ないんです。
身体が硬直したまま、
ガタガタと震えています。
電灯を消して部屋は暗いのに、
なぜかソレの姿は、
やけにはっきりと見えます。
ゆっくりと振り向いたその顔は、
恵美の顔でした。
しかし、
異常に目がつり上がって
肌は青ざめ、
歪んだ口元は普段の恵美とは
全然違います。
まるで、誰かの顔と
ミックスされているみたいな、
別人が恵美に成りすましているような、
そんな感じなんです。
抑揚を無くした恵美の声で、
「どうしてわかったの・・・」
と言うと、
冷たくニヤっと笑いました。
その瞬間、
洋子は気が遠くなったそうです。
はっと目覚めた時には、
朝になっていました。
隣の布団には誰もおらず、
パジャマだけが脱ぎ捨てられています。
どこにも恵美の姿はありませんでした。
恵美の服もバッグもないので、
帰ったのかなと思いました。
でも、一言の断りもなく帰るなんて変だし、
また昨夜の恐怖が蘇ってきて、
恵美の携帯にかけてみましたが、
圏外でした。
昼過ぎに何度もかけたけれど、
ずっと圏外。
夕方、実家に電話したら
お母さんが出て、
まだ帰っていない、とのこと。
ますます怖くなった洋子は、
別の友達に連絡を取って、
その夜から三日ほど、
そこへ泊めてもらったそうです。
結局、恵美は家出人として
捜索されることになるのですが、
未だに見つかっていません。
洋子も事情聴取を受けましたが、
あの夜のことは『布団に入って寝た』、
というところまでしか言えません。
朝になったらもう居なかったし、
家出するようなことは言っていなかった。
特に親しくしている男性もいなかったし、
恵美の行きそうな場所に心当たりもない。
と彼女は繰り返したそうです。
四日ぶりに洋子が自分の部屋に帰ると、
勝手にパソコンが立ち上がっていました。
あの夜に電源を切ってから、
一度も触っていないはずのに・・・
恵美と見ていた2ちゃんねるのスレが、
画面には表示されていました。
洋子は何かに憑かれたように、
恵美が指差したあのレスを探しました。
しかし、
どこにもそれらしいものは
ありませんでした。
話の筋は短くて、
はっきりと覚えているので、
あれば見間違うはずないのです。
何度もスクロールして見ましたが、
見当たりません。
もちろん、
あぼーんされたレスも無かったのです。
※あぼーん(2ちゃんねる用語)
投稿を削除する、またはされること。
私の話はこれでお終いです。
その後、洋子はアパートを引っ越して、
パソコンは友達に売ってしまったそうです。
(終)