おふくろに起こされた夜の出来事
小学3年の頃の話。
夜寝ていたら『トントン』と、
肩を叩かれ名前を呼ばれた。
おふくろの声だった。
「・・・え、なに?」
俺は目を瞑りながら訊いた。
『トイレに行きたいんだけど・・・
一人で行くの気持ち悪いし、
付いてきて・・・』
元々は霊感の強いおふくろだし、
じいちゃんが入院中で危篤状態という
悪いタイミングだった。
家に居るのはおふくろと弟、
そして俺の3人。
おふくろが精神的にかなり参って
いたのも分かっていたし、
強烈に眠かったが俺は快く了承した。
時間が何時だったか確認しなかったが、
とりあえず暗がりの中、
おふくろの手を握って階段を降りた。
階段を降りきってすぐ、
『ここで待っといて』
とおふくろに言われ、
俺は階段に腰を下ろし、
座っておふくろを待った。
とにかく眠い。
目が物凄くシパシパしていた。
壁に持たれてそのまま
寝てしまいたい思いだったが、
必死に我慢した。
おふくろに何かあった時は
俺が守らなければ・・・と、
子供ながらに強く思っていた。
そうこう待ち続ける事、
5分・・・10分・・・
待てども一向にトイレからは
おふくろが出てくる気配がない。
(なにしてんだよ・・・
こっちはもう眠くて仕方がねぇんだよ・・・)
堪らずトイレの前へ駆け寄り、
おふくろに声をかける。
「なあ・・・、もう眠いし、
俺戻っから」
『・・・ちょっと待って、もう済むから・・・
もう少しそこで待ってて』
「どれだけ待たされてると思ってんだよ。
寝るよ、もう・・・」
その瞬間!
背後の階段から物凄い勢いで
右手首を掴まれ、
そして強く引っ張られた。
(うわっ!!えっ誰!?)
振り返って見上げると、
おふくろだった。
(あれ!?いや、だって・・・えっ!?)
状況が全く理解できないまま
おふくろに引っ張られ、
おふくろの部屋で元々そこで寝ていた
弟とおふくろと俺の3人で寝たようだが、
一緒に寝たという記憶が酷く曖昧だった。
そして朝に起きると、
じいちゃんが死んでいた。
昨夜の出来事に関係があるのか、
あれは何だったのかも分からない。
寝ぼけていただけかも知れない。
仮に、あれが現実だとして・・・
あの時におふくろが現れず、
おふくろだと思っていたモノを
あのまま待ち続けていたら・・・
そのことも今となっては知る由もない。
(終)