隣家の幽霊物置と謎めいた女

物置小屋

 

これは、4年前くらいの体験話。

 

当時私が住んでいた部屋は、皆こぞって「落ち着くから」と、ほぼ毎日のように誰かしら泊まろうとするくらい通われていた。

 

間取りは1LDKで、5人くらい来ても狭いとは感じないくらい広く、この頃は彼氏もいなかったので好きなように泊まらせていた。

 

ただ、みんな遊びに来るくせに、なぜか玄関のドアを開けると見える、左横の一軒家の『物置』を気味悪がっていた。

 

いつも夜になるとその物置の扉が開いていて、友達らはその物置の中に「誰かいた」とか、「物置の扉が開いたり閉まったりした」とか言っていた。

 

だけど私は、毎夜ドアが開いているところしか見たことがなく、いくら言われても「建付け悪いんでない?」とか、「中の物が人に見えただけでしょ」としか思えなかったし、そう返していた。

 

そんなある日、男友達のマサヤ(仮名)が、心霊スポット帰りに「お祓いしに来たぞ」と、ほざいてやって来た。

 

私は特に霊感があるわけではないけれど、なぜか周りからは「お前の近くにいたら楽になる」とか、「何か取れた気がする」と言われるので、気にせず落ち着くまで部屋で休ませていた。

 

すると、マサヤは「車が何か変だから見てほしい」と言ってきたので、私に何か出来るわけではないけれど、とりあえず駐車場に停めてあるマサヤの車を見に行こうとした。

 

その時にマサヤが、「そういえば、さっき物置から女の人が見てた」と言った。

 

「気のせいでしょ」と軽くあしらって車を見に行こうと玄関のドアを開けた時、物置の扉が物凄い勢いで閉まったのを見てしまった。

 

ビックリして玄関のドアを閉め、「今の何?」と聞こうとしたところ、急に物置の方から扉をバタンバタンと開け閉めする音と、部屋のインターホンがピンポーンピンポーンと鳴り始めた。(もちろん誰もインターホンは押していない)

 

私は直感で、「あー、これは面倒くせぇやつだ」と思ったので、収まるまで部屋で待機することにした。

 

余談になるけれど、私は実家で家族のものではない足音や、「おーい」と言うオッサンの呼ぶ声などを聞くことに慣れていたので、今回も大して怖がりもせず、タバコを吸いながらボーっとしていた。

 

だけど、マサオは顔を真っ青にしながら体をプルプルさせて、「今までこんなことあったの?」と必死になって聞いてきた時は、少し可哀想にも思えた。

 

結局、1時間も経たないくらいで収まったので、部屋にマサオを残して車を見に行った。

 

案の定、車に変わったところは何もなく、その後は物置も扉が閉まったままの状態で何も起きなかったので、怖がって帰れないマサオを泊めてあげた。

 

次の日の朝、マサオが帰ってから食材の調達に行こうと玄関のドアを開けた時、嫌な視線を感じた。

 

物置の方を見ると、ちょうど物置の真上にあるその家の窓から、女の人がジーっとこちらを見ていた。

 

「あー、人が住んでるんだ」と思って会釈したけれど、ただジーっとこちらを見てくるだけで、会釈を返してくれなくて軽く傷ついた。

 

その後はしばらく何もなかったけれど、またある日、今度は母が遊びに来た。

 

お昼時でご飯を作っていたのでご馳走して、久々の娘の料理でタイミング良く自分の好物の麻婆豆腐が出てきて喜んでいた。

 

そしてご飯を食べた後、お茶を飲みながら色々と話している時に、母が「あの物置って気味悪いよね。あの家に変なのいるし」と急に言い出した。

 

「いやいや、よその家の人を悪く言わないでよ」とツッコんだところ、母の顔が少し暗くなり、「いや、あれ人じゃないよ。お母さん怖いから、毎回あんたが駐車場まで送り迎えしてくれないと部屋に入れない。ウチ(実家)のヤツらとは違う。怖いもん」と呟いた。

 

夕方になり、「じゃあ、お母さんご飯作らなきゃだから、帰るから見送って」と言う母を見送るために一緒に玄関を出てあげたら、母は物置の方をチラっと見た後に小走りで駐車場まで逃げて行った。

 

母は車に乗ってエンジンをかけながら、「あの女、気をつけなよ。部屋に絶対入れちゃダメよ」と真顔で言ってきて、正直その母の顔の方が怖かった。

 

そうして母の車を見送って部屋に戻ろうとした時、物置の扉がゆっくりと開いて、中から扉の端を握る白い手が見えたので、「こっちに来ても何もないし、そこにいた方がいいよ」と言って部屋に入った。

 

それ以降も、扉が開いたり閉まったりするのを見たり、時々インターホンが鳴ったり、その家の窓から女の人が見てきたりしたけれど、私の部屋で奇怪な現象が起きたりといった実害はなく、2年住んで引っ越した。

 

未だにあれは何だったのかわからないけれど、今でもあそこにいると思う。

 

その家も人の出入りをご近所さんは目にしたことがない上に、明かりがつくことも、物音がすることもないらしいので、まったくの謎。

 

今は、あの部屋で友達の彼氏を撮った写メに映る”その顔”が、日に日にこちらに向こうとしているのを観察している。

 

(終)

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