本家の裏庭に隠された井戸の秘密

井戸

 

私の家はいわゆる本家分家の

分家にあたる血で、

 

(さかのぼ)れば良いところの

武士だったらしい。

 

ですが、

 

今となってはそんな品位はまるで無い、

下町の八百屋というのが私の実家です。

 

4年前の正月のこと。

 

家から車で4時間ほどの場所にある、

本家に行った時の話です。

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本家で隠されていたものとは・・・

某県の山奥にあるS家(私の苗字)

の本家はとても広く、

 

年季の入った古めかしい家です。

 

正月と盆には必ず親戚で集まって

宴会をするという習慣があり、

 

その時もその慣例に合わせて

家族で本家に出向きました。

 

本家に着くなり宴会場に通され、

 

両親と祖父母は酒や食事を

楽しんでいました。

 

弟は、持って来ていたゲームボーイ

アドバンスでゲームをしています。

 

私まだ16歳だったので、

皆が酒を飲んでいるのを横目で見ながら、

 

『退屈だなあ・・・

 

そう言えば本家なんて滅多に来ないし、

探検でもしてみようかな?』

 

と思い、

静かに宴会場を出ました。

 

しばらくウロウロしていると、

どうやら裏庭に出てしまったらしく、

 

ぽっかりと空いた草むらの真ん中に

古めかしい井戸が見えました。

 

どう考えても、

周りから隠すような位置にあった井戸・・・

 

普通に生活していれば、

 

決して気づかないような位置に

それはありました。

 

井戸なんてあったんだ・・・

と思って近づいてみると、

 

その井戸には硬くフタがされていて、

柵が施されて近づく事も出来ませんでした。

 

『なんだあ、残念』

 

ちょっとしたオカルトを期待していた私は

思わず溜息をつき、

 

そろそろ飽きてきたので

宴会場に戻りました。

 

宴会場に戻ってから、

本家の叔母に井戸の話を訊くと、

 

「その話をT(弟)にはするんじゃないよ」

 

と、きつく言われました。

 

なぜ?と訊くと、

 

叔母は私を部屋の隅に呼び、

話を始めたのです。

 

江戸時代の終わり頃に、

お光という女性がS家に嫁いで来た。

 

お光の家は大変貧しく、

お光は金で売られて来た。

 

この結婚は政略結婚だった。

 

けれどもお光は精一杯に主人を愛し、

また主人もお光を愛した。

 

だがそれも長くは続かず、

 

主人は使用人の娘であるお妙と

関係を持ってしまう。

 

あろう事か、お妙は身ごもり、

月満ちて男児を生んだ。

 

子供がいなかったお光は、

お妙に辛くあたられるようになった。

 

お妙も主人を唆(そそのか)し、

 

石女に用はありませぬ、

と離縁させてしまった。

 

※石女(うまづめ)

子を産めない女。

 

そして、お光の後釜には

お妙が後妻として入り、

 

男児はS家の跡取りとして育てられた。

 

お妙にとって邪魔なお光は

不義の疑いをかけられ、

 

主人に手打ちにされた。

 

※不義(ふぎ)

人として守るべき道にはずれること。また、その行い。

 

※手打ち

自らの手で他人を斬り殺すこと。

 

そして、お光の亡骸は

S家の墓に入れる事はせず、

 

私が見た裏庭の井戸に

投げ込んだと言うのです。

 

この手の話のお決まりというのか、

 

それ以来、井戸のあたりに

お光の亡霊が出るようになった、

 

と叔母は話しました。

 

「でも、なんでそれを

Tに話しちゃいけないの?」

 

と私が訊くと、

 

「お光の亡霊は男の魂を喰っている。

 

だから男衆はあの井戸の存在すら

知らないんだよ。

 

もしあの井戸に近づいて

お光の亡霊を見てしまったら最期、

 

喰われてしまうからね」

 

と、お茶をすすりながら叔母は言いました。

 

自分を殺し、S家の跡取りとなった

その息子を探しているんだよ、とも。

 

なんでお妙じゃないのかと訊けば、

お妙はその後に変死したとか。

 

お光の呪いじゃ!なんて騒がれた、

とも聞きました。

 

なんだか胡散臭いというのが

正直な感想ですが、

 

その翌年に『実話だったんだ・・・』、

と思わせた事件がありました。

 

私の大叔父にあたる人(祖父の弟)が、

井戸の側で変死していたというのです。

 

目立った外傷もなく、

50後半でまっさらの健康体。

 

葬式の時に本家へ行き、

あんな元気な人がなあと皆が言う中で、

 

お光の話をしてくれた叔母と

話をしたのですが、

 

「あの人は・・・

お光に魂を喰われてしまったんだよ」

 

と、どこか遠くを見ながら言った叔母が

怖かったのを記憶しています。

 

それ以来、女である私も怖くて、

本家の井戸には近づけません。

 

(終)

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