深夜になると1階から物音が聞こえる友人宅
これは、俺が学生時代に体験した奇妙な出来事だ。
当時、俺と山崎は週末の度に友人の加藤の家で夜通し遊ぶことが多かった。(※名前は全て仮名)
加藤の家は一戸建てで結構広く、2階にもトイレがあるような家。
加藤の部屋は2階にあり、深夜2時を回っても1階からドアの開け閉めのバタンという音や足音などがよくしていた。
その物音は明け方の4時頃まで不定期に鳴り続ける。
加藤は両親と同居しているので、当然ながら加藤の両親が立てている音だと思っていた。
物音の主は・・・
そうして1年ほど経った頃、相変わらず物音がするので、ふと加藤に尋ねてみた。
「加藤の両親って結構寝るの遅いんだね」
「いや、とっくに寝てるよ」
「え?でも1階からよく物音するよ?」
「知ってる。けど両親じゃない」
俺は冗談かと思ったのだが、加藤はいわゆる怪談の類が大嫌いなので、とてもこんな冗談を言うはずがなかった。
さらに、俺と一緒に加藤の家に来ている山崎には、その物音が全く聞こえていないようだ。
それも冗談かと思ったが、山崎とは軽い口論になった程なので、恐らく冗談ではないのだろう。
しかし、ただ物音がするくらいなので、不思議だとは思いつつも恐怖を感じる程ではなかった。
そんなある日の夜、いつもの3人で加藤の家に集まった。
そして深夜2時を過ぎた頃、1階から物音が聞こえ始めた。
また始まったなぁと思いつつ、加藤の顔をチラリと見ると、加藤も俺の顔を見て頷いていた。
しかし、山崎は全く気付いていない。
ところが、これまでとは雰囲気が違うように感じる。
言葉では説明できないが、いつもの物音とは何かが違っていた。
何か変だなぁと思っていたところ、ゆっくりと階段を上がる足音が聞こえてきた。
さすがにこれには肝を潰し、意識を足音に集中した。
ミシミシ・・・ミシミシ・・・と、明らかに誰かが階段を上って来ている。
そして、3人の会話が完全に途切れた。
聞こえていない山崎すら、何故か会話をしようとはしなかった。
ゆっくりと近付いて来る足音。
その足音はとうとう階段を上がりきったようで、今度は2階の廊下からトン・・・トン・・・と歩く音が聞こえてきた。
その足音は、俺達の居る部屋の前で止まった。
次の瞬間、物凄い緊迫感が走った。
明らかに何者かが襖越しにこちらを見ている。
その視線と気配に圧(お)され、激しい恐怖に襲われた。
しばらくすると気配が無くなり、妙な圧迫感も無くなった。
この時は本気で怖かったので、加藤に確認することが出来なかった。
山崎には後日この事を話してみたら、やはり何も感じていなかったという。
会話が途切れたのは偶然だと言っていた。
月日が流れて俺達は社会人になり、互いに忙しくて集まる機会が無くなった。
そんな頃、偶然ばったりと加藤に会ったので、あの物音はどうなったか尋ねてみた。
すると、思いもよらぬ答えが返ってきた。
加藤の部屋のカーテンレールにはピエロの人形がいつも掛けてあったのだが、それを捨ててからは件の怪現象はパタリと無くなったという。
人形はフリーマーケットで買ったものだそうだ。
恐らくだが、あの物音の主は『子供』だったような気がしていた。
もしかすると人形に何かが憑いていたかもしれない。
(終)