向かいの座席には女性の綺麗な足
これは、電車の座席に本を読みながら座っていた時のことです。
その日は日曜の昼で、車内はあまり混んでいませんでした。
本を読み終わり、ふと目をやると、向かい側の座席に座っている女性の綺麗な足がありました。
僕は何気なく目を上にやりました。
すると、なんとその足の持ち主は恰幅の良い中年のおじさんでした。
居眠りをしています。
私の足どこ行っちゃったの!?
僕はあまりのショックに固まってしまい、周囲の人の反応を見ようと辺りを見回すと、みなさん気にも留めていない様子でした。
おじさんの隣にいる若い男女も普通に会話しています。
「○○駅~、○○駅~」
車内アナウンスと共に電車が止まりました。
すると、目の前の女性の足だけが歩いて電車から出て行きました。
一瞬のことでした。
残されたおじさんの足を見ると、ズボンに革靴といった普通の中年男性らしい足で、相変わらず居眠りをしていました。
「ドアが閉まります。閉まるドアにご注意ください」
アナウンスの後にドアが閉まった途端、おじさんの隣に座っていた若い女性が「私の足どこ行っちゃったの!?」と大声を出しました。
その声に目を覚ましたおじさんを含め、周囲の乗客は一斉に彼女を見ました。
「おまえ、何言ってるの?」と連れの男性が言うと、「え?私、今なんて言った?」と戸惑う彼女。
車内はシーンと静まり返りました。
「足どこ行っちゃったの?とか意味不明なこと言ってたよ」
「えー、うそー、なんでー」
若い男女は半笑いで話をしながら、次の停車駅で降りて行きました。
もしかすると僕は、さっきの足だけの女性が彼女に乗り移った瞬間を見てしまったのでしょうか。
(終)