山奥で浮かんでいた球状の霧の塊
私の実家は、とんでもない山奥の村にある。
子供の頃、山菜採りや釣りでさらに奥まで入ると、『球状の霧の塊が浮かんでいる』ことがあった。
それはぼんやりとしたものではなく、まるでドライアイスの煙のような、向こう側が全く見えないくらいの濃い霧の塊。
直径は2~3メートルくらいで、ブナの大木の下や、生い繁った木の下などの薄暗い所に浮かんでおり、球状のままモヤモヤとしていた。
近くまで寄って見てみたかったけれど、何か不気味で怖く、それを見てしまった時はすぐ家に帰っていた。
祖父に話してみると、「俺もおまんた(お前)の歳の頃に何べんか見たが、まだおるんか」と言っていた。
そして「あれは何?」と聞いても、「わからん。けど、まぁ近づくな」と忠告された。
父にも聞いてみたところ、「俺もガキん時は見たが、そういえばいつからか見なくなったなあ」と言っていた。
私は高校から下宿生活で村を離れ、そのまま就職したこともあってすっかり忘れていたけれど、ある時の連休で実家へ帰った時にふとこの体験を思い出した。
そこで、渓流釣りのついでにあの球状の霧があったら写真に撮ってやろうと、それからは実家へ帰る度にカメラを持って山奥まで釣りに行くけれど、残念ながら一度も見れずにいる。
(終)