高尾山の下山途中に遭遇した二人の男性
これは、2005年頃の体験話です。
当時は高尾山の登山も今より人気はなく、「山ガール」という言葉もあったかな?というくらいでした。
大学を卒業したばかりのある週末に、私は同級生と女二人で『高尾山』に登りました。
低い山ですが達成感と頂上で食べるお蕎麦が美味しくて、それ以降は天気の良い週末は高尾山を登って蕎麦を食べて足湯に浸かって帰る、というのが習慣になりつつありました。
だんだん慣れてきた頃、1号路(ケーブルカーのある道)の往復では物足りなくなり、下山道を色々と変えたりするようにもなりました。
たまに蛇を見かけるくらいで、道は細めだったりでなかなか楽しかったのです。
そんなある週末のことです。
いつも通り14時に高尾山口駅で待ち合わせ、登山からのお蕎麦と足湯。
この日は滝のある道から帰ることにしました。
1号路とは違い、また私たちの登山時間が混雑を外してあるので、前にも後ろにも人は見えませんでした。
30分ほど下りたところで、後ろに中年の男性がいるのに気づきました。
頭にはバンダナ、普通の登山服にリュックを背負っています。
高尾山で一人登山の人はあまり見ませんが、不思議には思いませんでした。
その男性は私たちと30メートルくらいの距離を保ち、曲がり道で見えなくなったりしながらも同じペースで下りていました。
私たちは小川でキャッキャッと写真を撮ったり、だらだら喋りたかったので、心の中では「早く私たちを追い越して欲しいなぁ」と思っていました。
ですが、ずっと同じ距離を保たれているうちに、だんだんと気持ち悪くなり、何度も振り返って確認していました。
その男性は満面の笑みでこちらを見ながら下りて来ています。
「気持ち悪いね…。変な人かな?」
「やだね。あー、でも、もうすぐ滝だ。そこでゆっくり写真を撮って抜かしてもらおうよ」
その滝は山道から少しだけ外れています。
そこに入った私たちは、謎の像などがある場所で写真を撮りつつ、男性の様子をうかがっていました。
すると男性は、私たちが見える場所で止まっていて、こちらをじっと見ていました。
満面の笑みで。
「ヤバいね。逃げよう」
私たちは大急ぎで下山道に戻り、無言のまま早歩きで男性との距離を引き離し、ほとんど姿が見えなくなりました。
「不審者だよね?怖いね」
「暗くなってきたし、急ごう」
その男性に先を行ってもらうためのんびり歩いていたので、時間は17時近くなっていました 。
男性の姿が消え、また明るい雰囲気に戻った私たちは喋りつつ歩き、もうすぐアスファルトの道に合流してゴールという時、向こうから道を登ってくる別の男性がいました。
20代後半くらいに見えました。
ただ、異様でした。
白いワイシャツにジーンズ、手ぶら、髪は長めで下を向いた顔があまり見えません。
ガリガリに痩せていて、ボタンを3つほど開けたシャツから覗く肌は真っ白でした。
まるで生きていないみたいに…。
もうこれから暗くなるのに今から登山?しかも手ぶらで?
山頂まで自販機はもちろん、明かりもないのに。
その時、道は人がすれ違うのがやっとの細さで、私と友達はその若い男性を通すため、端に避けて少し立ち止まりました。
若い男性との距離が10センチも開かないすれ違う瞬間、「○○○」と、その男性が何か言いました。
言葉は思い出せません。
私も友達も。
確か、3文字の言葉でした。
ただ、その時にものすごい悪寒がしました。
これまで幽霊などを見たことはないですが、あれは普通の生き物ではない感じがしました。
すれ違った直後から私と友達は無言になってしまい、走るくらいの早さで山を下り、5分ほどでアスファルトの道に合流した時に、ようやっと言葉を交わせました。
「あの人、何…」
「今から手ぶらであの道を登るの無理だよね?てか、何しに…」
「何て言ってた?あの人」
「わからない…」
考えるほど怖くなりました。
足早に駅まで帰り、その日は解散しました。
それ以降、どちらともなく高尾山に誘わなくなり、それきり高尾山に近づいていません。
毎週のように登っていたのに…。
あのお蕎麦は食べたいのですが、未だに怖くて行けません。
一人目の中年の男性はまだしも、二人目の若い男性は一体何者なのか。
あの言葉は何だったのか。
あれほど有名な観光地の高尾山でこんな体験をするなんて、その日までは考えたこともなかったです。
あとがき(考察)
琵琶滝コースを下っていると、その近辺に精神科病棟があり、心に病のある人が療養していました。
琵琶滝から分岐してすぐに病院まで戻れる短い周回コースがあるので、誤って抜け出してしまった患者さんか、あるいは普通に外出中の患者さんに会ったのかもしれません。
長年の疑問が解決し、幽霊ではなかったことにほっとしましたが、もうあのコースには近づかないと思います…。
(終)