防波堤でギターを弾いていると隣に

防波堤

 

これは、初めて不思議な体験に出くわした時の話。

 

私は夏になると、防波堤の先端で酒を飲みながらギターを弾いたり笛吹いたりよくするのだが、この日も20時頃に家から紙コップを持参して、コンビニで酒を買ってから海へ楽器を弾きに行った。

 

弾き始めて30分程した頃、まるでスーパーの鮮魚コーナーに顔を突っ込んだぐらいの生臭い匂いが隣から漂ってきた。

 

ん?何だ?とそちらの方へ振り向くと、そこには『人の形をした黒い塊』が私の隣に座っていた。

 

あまりの驚きに、心臓が止まるかと…。

 

ギターを弾くのを忘れてソイツの方を見ていると、ソイツは突然「タバコクレ」と言ってきた。

 

私は少し震えながらも、タバコに火をつけて隣に置いた。

 

次に「サケモクレ」と言ってきた。

 

何だこいつ、えらく図々しい奴だなと思ったが、紙コップに酒を入れてあげた。

 

そうして酒をあげたあたりから恐怖心がどんどん増してきたが、隣にいるソイツを放っておいてまたギターを弾き始めた。

 

その黒い奴の顔はわからなかったが、ずっと私がギターを弾いているのを見ている気がしたので、笛を貸してやった。

 

すると、ピューとかフュルルルルという、よくわらない音を出していた。

 

吹くってことは楽しんでいるのだろうという都合のいい解釈をした私は、しばらく磯臭い中、ソイツの笛が出すよくわからない音とセッション的なことをしていた。

 

しばらくしてソイツは「モウカエル」と言って、海の方に向かって歩いて行った。

 

携帯を見ると、いつの間にか深夜2時を過ぎていた。

 

そういうわけで、私も家へ帰ることに。

 

それにしても一体あの黒い奴は何だったのだろうか。

 

また海へ行ったら来るのかな、アイツ。

 

(終)

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