おばあちゃんとの最後の会話
私は、おばあちゃん子だった。
これは、その祖母が亡くなる時の話。
だいぶ前のことになるけれど、祖母は急に体調が悪くなり、入院することを余儀なくされた。
祖母は明治生まれの気丈な性格だったので、「入院なんて嫌だよ」、「ウチに帰りたい」と病院を毛嫌いしていた。
私は会社の帰りなど、時間の許す限りお見舞いに行った。
けれど、容態は悪化し、急に昏睡状態になってしまった。
母から会社に、「もうダメかもしれないから最後に会いに来てやって」と連絡があった。
私が病院に着いた時は叔母しかおらず、ちょうど洗濯物を屋上へ取りに行くところだった。
「おばあちゃん、アユミだよ。わかる?来たよ」※仮名
私は病室で一人、意識のない祖母に話しかけていた。
ふと視線を感じ、祖母の顔を見ると、目を開けて私を見ている。
私はびっくりして、「おばあちゃん、意識が戻ったの?わかる?アユミだよ」と話しかけながらも、心の中で『ああ、早く叔母ちゃん戻って来ないかな…』と焦っていた。
祖母は声をかける度に「うんうん」と優しい表情で頷き、管の通った手で私の手を握り返してくれた。
ドアノブの音がし、『叔母ちゃん戻って来た!』と思ったその時、祖母は目を固く閉じていた。
私は叔母に、「おばあちゃん、意識が戻ってたんだよ!今、目を開けて頷いてたんだよ!」と、ものすごい勢いで捲し立てた。
最初は驚いて先生まで呼んだりしたけれど、「そんなことはありえない」と、この件は私の幻覚ということで片付けられた。
そんな不思議なことがあった2日後に祖母は亡くなった。
結局、あの時の話は誰も信じてくれなかった。
でも、あれは確かに意識のある目だったし、私の顔を見て嬉しそうに頷いてくれた。
そう思えてならない。
そうして祖母が亡くなって半年近くが過ぎた頃、私は夜中に夢を見ていた。
祖母が佇んでいる。
私は祖母に向かって、「あの時、意識が戻ってたよね?あれはお別れの挨拶だったの?」と聞いたけれど、そこで目が覚めた。
ただ、ふと足元を見ると祖母が私の足首あたりに立っており、「そうだよ」と一言だけ言うと、すっと消えていってしまった。
私は怖がりだけれど、その時は怖いという気持ちはなく、ただただ涙が出てきた。
(終)