四次元の世界と繋がる木 3/4
話にならないので
帰る事にして玄関を出ると、
バイクが目にとまった。
来た時はシートが掛けてあったけど、
風でシートがめくれていたからだ。
「これ・・・なんだよ?」
ヨッシーのバイクは傷だらけで、
ライトと全てのウィンカーが割れていた。
所々に枯れ枝が付いていて、
ミラーがあらぬ方向に折れ曲がっている。
何処をどう走ったら、
こんな事になるんだろう?
ヨッシーだって、
無傷でいられるはずがない。
「ヨッシー!おいヨッシー!お前?」
「あー、あー、あー」
ヨッシーは痴呆のように叫ぶだけで、
答えなかった。
暫くしてヨッシーは、
仕事を辞めて精神科に通うように
なったんだ。
日常生活は支障がないけれど、
バイクには乗れなくなった。
俺はやはりあの日の事が関係している
ような気がして、
ババアの所に行って
解決法を聞こうと思ったけれど、
出来なかった。
約束を破った負い目があったから。
いつの間にかヨッシーの事は
仲間内でタブーになっていって、
疎遠になった。
そんなある日、
不思議な噂を耳にした。
『四次元の木』の噂だ。
ある山奥にあるその木は、
厳重にフェンスで仕切ってあり、
入れないようになっている。
管理しているS市に問い合わせたら、
存在を否定される木。
この木はなんの変哲もない
樹齢50年くらいの木らしいのだけど、
なんと、四次元の入り口に
なっているという。
空き缶や石を投げつけると、
消えるという。
消えた空き缶や石は、
どこにも見当たらない。
つまり・・・
この世に存在しなくなる・・・。
元々は、山菜取りの老夫婦の旦那が
奥さんの目の前で消えた!
というのが噂の始まりだった。
噂が広がった後は大変で、
珍走団は集まるし、
子供が消えたとか騒ぎになるし、
でも四次元の木に行った事のある
珍走団の友達に聞いた話では、
何を投げ付けても、
消える事は無かったって。
その友達は先週も行っていて、
「フェンスを壊したから今なら入れる」
って言っていて、
刺激を求めていた俺は、
懲りずに行く事にしたんだ。
仲間を集めて出発しようとした時、
「僕もいくぞー、僕も、僕も僕も」
と、なんとヨッシーが!
ヨッシーに教えたのは誰?
痴呆を連れて行ってもお荷物。
けれどヨッシーは、
俺のバイクに跨って離れない。
「嫌だ嫌だ、僕も、僕も、へへへ」
ヨッシーには誰も
連絡をしていないという。
どうして知ったのだろう?
仕方なく、
ニケツで連れて行く事にした。
珍走団の友達の言った通り、
フェンスは壊れていた。
四次元の木は直ぐに分かった。
しめ縄がしてあって酒が置かれていたから。
「なんの変哲もないな・・・」
そう言って、仲間の一人が
木の枝を軽く投げた。
バシッ!
枝は虚しく地面に落ちた。
「なんだ嘘かよ・・・」
何故か、この行為を見たヨッシーの
落ち着きがなくなった。
「ダメだよ、ダメだよ、怒られるよ。
あのオジサンに怒られるよ」
ヨッシーは大声で暴れている。
山奥とはいえ、夜の10時。
警察が来ては面倒だ。
「ヨッシー、うるさいよ!静かにしろよ!
もーなんでこんな池沼連れて来たんだよ!
くそ!」
俺は連れて来た事を後悔した。
ヨッシーを見ると騒ぐ一方で、
苛立ちが増大してしまった。
みんなに悪いような気がして、
冗談のつもりである提案をしてみた。
「ヨッシーを木に押し付けてしまおうか?
うるさいから四次元に葬ってやろうか?」
軽い冗談だ。けれど・・・
「おー!いいね!こんなお荷物は
四次元に葬ってしまおう!」
「どうせ生きていても役に立たないよ。
葬ってしまおう!」
やんややんやの大騒ぎ。
ヨッシーコールまで起きてしまっている。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、
四次元なんて嘘なんだし、
ヨッシーをビビらせて
おとなしくさせるだけだ。
俺もテンションが上がってしまって、
ヨッシーの腕を掴んだ。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、
オジサンがオジサンが・・・僕嫌だよ」
オジサンなどと、
訳の分からんヨッシーに怒りさえ感じて、
腕を力強く掴んだ。
反対の腕を友達が掴んだ。
引きずるように、
木に向かって歩いて行った。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、
「嫌だよーああああああああ」
足をバタバタして抵抗するヨッシー。
仲間が懐中電灯をぐるぐる回して
雰囲気を盛り上げる。
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、
ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、ヨッシー、
もはや後には引けない。
四次元の木に後一歩の所まで来た時、
友達に目配せをして力強くヨッシーを
木に押し付けた。
(続く)四次元の世界と繋がる木 4/4へ