脳梗塞で入院したが

28歳のある日、

俺は脳梗塞で入院したんだ。

 

俺の担当医の先生は

毎日優しく話しかけてくれて、

 

俺の世間話にも

よく付き合ってくれるんだ。

 

先生は腕もピカイチらしく、

 

人も良くて、

そのうえ容姿もカッコイイらしい。

 

まさにスーパードクターだ。

 

そんな噂もあったので、

 

「すぐに手術お願いします」

 

って言ったよ。

 

無事に手術終了。

 

でも、おかしい・・・。

 

何かがおかしい気がする・・・。

 

見えてないんだよ、

目が。

 

それで俺は先生に

言い寄ったよ。

 

「なんですか、これは。

何がスーパードクターだ!

 

人をバカにしやがって!

慰謝料払えよ!」

 

って。

 

今にして思えば、

言い過ぎかも知れない。

 

なにせ俺の病気は、

 

普通の医者では治せない

ようなものだったらしいからね。

 

でも、俺は泣いたよ。

 

涙が枯れるまで泣いた。

 

だって、

 

結婚してまだ2年の

嫁さんの姿も、

 

これから生まれてくる

子どもの顔も、

 

もう見れないんだから。

 

それから1週間して、

 

またそのドクターのところに

行ったんだ。

 

いくら何でも言い過ぎたと思って。

 

「治してもらったのに、

 

あんなことを言ってしまって、

すみませんでした」

 

俺はすぐ謝った。

 

それから5秒くらい後に、

 

ドクターが泣きながら

こう言ったよ。

 

「いや、私こそすまない・・・。

 

完全に治すことは

出来なかったみたいだね」

 

本当にドクターは優しいな

と思ったよ。

 

そして俺は、

はにかみながら言ったんだ。

 

「命に比べたら、

 

目が見えなくなったからって

どうってことないですよ」

 

って。

 

そしたら今度はすかさず、

ドクターが言った。

 

「ほら・・ほらね・・・。

 

やっぱりまだ治ってないんだね、

すまない・・・」

 

って。

 

俺は気づいた。

 

俺はなんて重大な勘違いを

してたんだと。

 

俺は思った。

 

ドクターありがとう。

 

謝らないといけないのは

俺の方です。

 

そして、

一番優しいのは、

 

こんな俺と結婚してくれた

妻なんだと。

 

(終)

解説

最初に「容姿もカッコイイらしい」

と彼は言っている。

 

つまり、

 

彼は最初から

目が見えなかった。

 

でも、

それを忘れてしまっている。

 

彼は手術によって

記憶喪失になったのだ。

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