とある母子家庭の朝の風景
私は母子家庭で、
おうちは8階建てマンションの、
最上階の1DK。
12畳ほどのお部屋と、
廊下にユニットバス。
廊下と繋ぐドアが一つあって、
そして玄関。
収納スペースのないところが
玉にキズだったけど、
二人なら充分な広さ。
昨日、ママがポールハンガーを
注文したって言ってた。
これでちょっとは使いやすくなるのかも。
寝てから少し経った深夜、
トイレに行きたくて目を覚ました時、
最近は物騒だから戸締りを徹底してねって、
ママに言われていたのを思い出した。
念のために玄関の鍵を確認すると、
チェーンが掛かっていないことに気づいた。
危ない、危ない・・・
きちんと閉めておかないと!
部屋に戻ろうとした時、
ポールハンガーに掛けてあった
ママのパジャマに手が触れた。
玄関に置いておけば便利かもね!
翌朝、
ガサガサと音がして目を覚ました。
しまった・・・
寝ぼけてトイレでそのまま
寝ちゃったみたい。
ママの朝は忙しい。
ベランダに出てゴミの分別をしてるのかな。
トイレで寝てたなんてバレたら、
怒られちゃうなぁ。
コソコソと部屋に戻って制服を取り出すと、
邪魔しないようにドアをそっと閉めた。
手早く服を着替えていると、
ちょうど携帯の予備アラームが鳴った。
いけない。
遅刻しちゃう。
一つしかないベランダの窓から、
爽やかな風が吹き抜ける。
うん、今日もいい天気!
杖は持ったし、
忘れ物もなし。
私は急いで玄関に向かった。
「行ってきまーす!」
玄関を開けると、
ちょうど配達のお兄さんがいたみたいで、
ぶつかっちゃった。
もう、
早く行かなきゃ遅刻しちゃうのに・・・
(終)
解説
娘の「杖は持ったし」ということから、
目が見えていない。
配達のお兄さんが届けに来たのは、
ママが昨日注文した「ポールハンガー」。
しかし昨日の深夜、
ポールハンガーに掛かっていると思った
ママのパジャマに手が触れた。
それは、
パジャマ姿で玄関に吊るされた、
ママの死体だった。
ドアチェーンが掛かっていなかったのは、
侵入者が居たためである。
ベランダでガサガサやっていたのは、
犯人と思われる。
そして、
娘はトイレで寝ていたので難を逃れた。