安産の神様の掛け軸がある部屋にて
これは、去年に妹の初出産に合わせて数週間日本に帰った時の話。
ちなみに私は多少見たり聞こえたりするけれど、祓ったりは出来なくてただ怖がっているだけの人だ。
帰国は出産前後の手伝いの為で、妹の家の空いた部屋に泊めてもらうことに。
「予定日までは美味しい物を食べに行ったり買い物したりしようね」と言っていたが、私が日本に向かっているちょうどその日に急遽帝王切開で産まれた。
結局、妹はそのまま入院することになった。
金縛りで目が覚めると・・・
そんなこんなで、私の寝泊まりする部屋には妹の旦那実家に伝わる『観音様の掛軸』が掛けてあった。
安産の神様だそうで、そのご実家では近所で誰か妊娠するとよく貸し出したりしている人気の掛軸だそうな。
妹が妊娠すると送られて来たそうなので、水と塩と、なぜか祖母の手製の猿ボボもどきを供えてお祈りしていたらしい。
※猿ボボ
岐阜県飛騨地方で昔から作られる人形。様々な御利益を生んでくれるとされている。
私も到着当日に「無事産まれました」とお礼に手を合わせ、布団を敷いて枕をそちら側にし、足は出入口の方にして寝ていた。
なにしろ予定日より早く産まれたので、荷物の受け取りや頼まれた物を買って病院に届けたりと、毎日バタバタして忙しかった。
そして2日目か3日目の朝方、金縛りで目が覚めた。
寝入りばなの金縛りは多くても、寝ている最中に金縛りで起きるのは初めてだった。
すると、私の身体の左側に大量の人が行き来していて、ガヤガヤと話す声、靴や下駄履きの足音、ガラガラ戸がひっきりなしに開閉する音でとにかく賑やかだった。
「ありゃ、変なの出たか?」と思ったけれど、誰も私に関心が無い様子で、こちらに来ないし私をチラっとも見ない。
皆ガラガラ戸から入って来て、私の左側の壁沿いを枕元へ向かい、そして折り返してまたガラガラ戸から出て行くだけ。
それに、皆ぺちゃくちゃお喋りしていて楽しそう。
そんな光景を横目で見ていたら、服装も和服や洋服と様々だった。
その中の一人、着物に下駄履きで白い手拭いを被った美人さんが、出て行く前に枕元の方を振り返り、「本当に宜しくお願いしますねえ」と言った。
それを見た私は、「あ!これみんな観音様にお参りに来ている人たちだ!」と気付いた。
全員女性だったし。
しばらくすると金縛りが解けて、身体起こして明かりをつけた。
時間は4時頃だった。
そして、出入口から掛軸の間に買い物袋や服やら置いていたのを慌てて除けた。
「通路塞いじゃダメよ」と観音様に起こされたんだろうと思い、お水を替えて、「気付かなくてすみませんでした」と手を合わせ、また寝た。
今年も甥っ子を見に日本に帰ったけれど、通路には何も置かないように気を付けた。
おかげで金縛りになることはなかった。
(終)