遺品で頂いたのは使っていた布団だった
※名前は全て仮名
これは数年前、入院中に知り合った江藤さんの話です。
江藤さんは50代後半の男性で、職場で急に倒れて病院に運ばれてきたそうです。
その江藤さんには同年代の松本さんという親友がいたらしいのですが、江藤さんが入院する数ヶ月前に急死されたとの事。(死因までは聞いていません)
江藤さんと松本さんは共に独身で一人暮らし、家も近所だった為、頻繁にお互いの家を行き来していたそうです。
あの布団は俺が使わなきゃいけない
松本さんが亡くなった日も、江藤さんは松本さんの家を訪ねました。
しかし、約束をしていたのに呼び鈴を鳴らしても松本さんが出て来なかったので窓から部屋を覗くと、布団から半分はみ出た状態で倒れている松本さんを発見しました。
急いで救急車を呼びましたが、手遅れだったそうです。
松本さんが亡くなった後、部屋を片付けに来た松本さんの兄弟から、「大した物はないけれど、もし良ければ遺品を貰ってやって欲しい」と言われ、江藤さんは松本さんの家に行きました。
そして江藤さんはいくつかの遺品の中から、松本さんが亡くなった時に使っていた『布団』を頂いたのだそうです。
「気持ち悪くないんですか?」と兄弟の方に尋ねられたそうですが、江藤さんは何故かその布団を自分が引き取らなくてはならないような気がしたのだそうです。
布団を貰ってから、江藤さんはそれまで使っていた自分の布団を捨て、松本さんの布団で寝るようになりました。
正直、私はそれを聞いて少し不気味に感じました。
松本さんの布団で寝るようになって以来、ほぼ毎日、夢に松本さんが出てくるようになったそうです。
しかし江藤さんは、松本さんはきっとまだ死にたくなかったのだろう、色々と未練もあるのだろう、そんな愚痴を自分に話したいのだろうと思い、あまり気にはしていませんでした。
けれど、その布団を使うようになってから、江藤さんはよく体調を崩すようになりました。
体重も激減したようで、「癌じゃなきゃいいんだけどなあ」と言っていました。
江藤さんの体は次第に衰えていき、入院する少し前にはかろうじて仕事には行っていたものの、仕事中に具合が悪くなって早退する事も多くなっていたそうです。
江藤さんの体調は良くならなかったけれど、検査をしても特に異常は見つからず、結局10日程で退院する事になりました。
退院前日、余計な事かと思いつつも江藤さんに聞いてみました。
「布団、捨てないんですか?」
「何で?」
「いや、何て言うか・・・その布団を使い始めてから体調を崩したって思うなら、布団を供養とか処分とか、してみたらって・・・」
「友達の形見だしなあ。布団が悪いって証拠はないしな。まさかあいつが祟ったりするわけないし」
江藤さんには布団を処分するという考えは全くないようでした。
「それになあ、あの布団は俺が使わなきゃいけないんだよ。ずっとな」
どうして江藤さんがそこまで布団に執着するのかは分かりませんでしたが、たぶん江藤さんは退院後も松本さんの布団を使い続けていると思います。
元気でいてくれたらいいなと思うのですが・・・。
(終)
これ、間違いなく布団で生気吸い取って江藤さん連れて行こうとしてるな。