大酒飲みだった亡き父の仕業
これは、知人の身に起こった話。
知人の明美さんは、数年前に父親を亡くした。※名前は仮名
通夜だ葬式だ初七日だと忙しかった日々も一段落して暫くした頃、明美さんは急に深酒をする様になったのだという。
亡くなった父が現れる
元々酒が好きではなかったので、おかしい、やめようと思うのだが、意に反して夜になれば酒をあおり、酔いつぶれるまで飲んでしまう。
亡くなった父親は大酒飲みであったので、さては父の仕業かと思い至った。
だが、仏壇に酒を供え、やめてくれるように手を合わせても、全く効果がない。
実家を離れていた妹さんも明美さんの異変に気付き、遠まわしに病院に行ってみないかと勧めてくる。
それもそうだな、と受診を考え出したそんなある日のことだった。
また酔いつぶれ居間で眠っていた明美さんは、襖が開く気配で目を覚ました。
見ると、亡くなった父が立っている。
不思議と恐怖は感じなかった。
父の方も久しぶり等と、ごく普通に振る舞う。
向かいに座った父に、明美さんは尋ねてみた。
「お父さん、私の体借りてお酒飲んでるでしょう?」
「うん・・・すまんな」
「体がツラいから、もうやめてもらえない?お酒はお供えするから」
「分かったよ」
ばつが悪そうに頭を掻く仕草は、生前の姿そのままだった。
しばらく他愛もない会話をしていたが、夜が明けるのを見た父は、そろそろ行くかと腰を上げた。
明美さんも外まで見送るよと、一緒に玄関に向かう。
だが、父が開けたドアの外は、いつもの景色ではなかった。
見知らぬ何処かの住宅街が広がっている。
でもそれだけではない。
緑のセロハン越しに眺めたように、世界中が緑色に包まれていた。
ああ、この人とはもう住む世界が違うんだ。
そう感じた途端、急に恐ろしくなり足が竦んだ。
「・・・それじゃあな」
父は軽く振り返ると、静かに扉を閉めた。
明美さんはどうしても外に出ることが出来なかった。
この日を境に、明美さんの深酒はぴたりとや止んだそうだ。
父親の四十九日、その朝の出来事だという。
(終)