うちの娘はよく天井の隅の方に向かって・・・

天井

 

巷では、小さな子は「幽霊がみえる」とよく言う。

 

俺には間もなく4歳になる一人娘がいるのだが、これはその娘の話。

 

去年、俺たち家族は築40数年の借家に住んでいた。

 

大雨が降るたびに雨漏りで大騒ぎになるようなボロ家だ。

 

だが、家の前が公園として整備されている大きな川の土手のため、娘を遊ばせるのに理想的で、小さいながらも庭があるからバイクの整備も出来るので、俺はこの家をとても気に入っていた。

 

大家さんはお婆さんで、ご主人が亡くなられてからこの家を借家にし、故郷である新潟に戻られたとのことだった。

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「あれはだ~れ?」

それは去年のお盆のことだった。

 

妻は買い物に出ていて、俺は娘を昼寝させようと、添い寝をしながら子守唄を歌ったりしていた。

 

すると、ウトウトしていた娘が突然俺の肩越しに背後を指差して、「あれはだ~れ?」と言った。

 

それ以前にも、娘はよく天井の隅の方に向かって話しかけたり笑いかけたりしていた。

 

娘はわりと言葉が達者な方だったので、「だれかいるの?」と聞くと「おじいちゃん」と答えていた。

 

娘の誕生を楽しみにしていた妻の父親が出産の直前に亡くなっていたので、「このおじいちゃん?」と言って義父の遺影を娘に見せると、「そう」と言ったり「ちがう」と言ったりした。

 

大家さんのご主人がこの家で亡くなったらしいことも、ご近所の話からそれとなく知っていたので、俺たち夫婦は少しゾッとしながらも、そんなこともあるかなと話し合っていた。

 

・・・なので、添い寝をしたまま「あちゃ、またかよ・・・。でもお盆だしなぁ」と思いながら、娘に「また、おじいちゃん?」と聞いてみた。

 

しかし娘はこう言った。

 

「ちがうよ。あかちゃんをだっこしたおねえちゃん」

 

えっ?そんな話は知らないぞ!?

 

その瞬間、俺の体中の血は逆流したに違いない。

 

全身に物凄い鳥肌が立ったことは覚えている。

 

その時、俺は振り返れなかった。

 

娘にまた聞いた。

 

「何してる?」

 

「こっちみてる」

 

娘は特に怖がるわけでもなく言う。

 

俺は身動き出来なかった・・・。

 

言葉が達者とはいえ、当時2歳10ヶ月の娘がそんな具体的な作り話ができるわけがない。

 

そして、「まだ、いるの?お姉ちゃん」と何度目かに聞いた時、いつもの通りお気に入りのぬいぐるみを玩(もてあそ)んでいた娘は、ちょっと面倒くさそうに「んー、もういないよ」と言って眠ってしまった。

 

結局、妻が買い物から戻るまで、眠ってしまった娘に寄り添ったまま、俺は後ろを振り返ることが出来なかった。

 

あとがき

母子が交通事故に遭ったとか、無理心中したとか、空襲で死んだとか、そんな話はなかなか人の口にはのぼらないものだし、俺は知りたくもない。

 

だが、今でもこのことを思い出すたび、全身に鳥肌が立ってくる。

 

娘は成長するにつれ、そういうことを言わなくなり、今では暗がりやテレビに出てくるオバケや怪物を怖がる普通の保育園児だ。

 

おそらく本人も去年のお盆にそんなことを言ったとは覚えていないだろう。

 

そういうものかもしれない。

 

ただ、大人になっても本当に「みえる」人もいるらしい。

 

テレビの心霊番組に出てくるような、自称霊能者や自称霊感の強いタレントなんてのは胡散臭いのが多くて信じる気にはならないが、そんな俺でも「この人はみえている」と信じている人物は二人だけいる。

 

(終)

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