拾った子猫を部屋に連れ帰ったが・・・
これは、猫にまつわる不可解な体験をした話。
私は一人暮らしをしていたOL時代、仕事の帰りに子猫を拾った。
電信柱の影で「みゃあみゃあ」と泣いていて、その愛らしさにハートを射ち抜かれ、そのまま抱いて帰った。
そうは言っても、当時住んでいた1DKのマンションは当然ペット飼育禁止。
引き取り手のアテはいくつかあったので、とにかく数日間だけ世話をしようと思った。
もしオーナーに見つかれば、正直に話して1日か2日だけ待ってもらおうと安易に考えていた。
隠れる場所なんてないのに・・・
私の住んでいたマンションは、5階建ての5階フロア。
女の一人暮らしなので戸締りはキッチリしてある。
帰宅して玄関に入ると、いつものように鍵とチェーンを掛け、それから子猫を床に降ろした。
すると、トットット・・・とベッドの下に潜り込んで行った。
覗き込むと、薄暗いベッドの下でジッとしてこちらを見ている。
「ちょっと待っててね」と声をかけて、台所に行った。
鶏ささみがあったのでレンジでチンして火を通し、裂いて冷ましてご飯に混ぜたものを少しだけ作り、「ごはんだよ~」と持って行った。
でも、ベッドの下から出てこない。
あれ?と思って覗き込むと、もうそこには居なかった。
「出ておいで~」と言いながら探したけれど、何処にもいない。
私の部屋は色気も何もない殺風景な部屋だったから、隠れる場所なんてないのに・・・。
窓も玄関も閉まったまま。
トイレやお風呂には窓はないし、そもそもドアは閉まっている。
クローゼットの中も探した。
カラーボックスの裏も探したし、テレビの後ろも探した。
まさかと思ったけれど、冷蔵庫や洗濯機の中までバカみたいに探した。
でもどんなに探しても、確かに連れて帰ったはずの子猫は見つからなかった。
あまりにも見つからないので、連れて帰ったことが夢なのかと思った。
でも私の手と胸には抱いて帰った感触が残っていたし、抜け毛が少ないはずの子猫なのに、ジャケットの内側には明らかに猫の毛と思われるものが小さく一塊付いていた。
訳が分からなくなってしまい、その日は恐怖で泣きながら部屋中子猫を探したけれど、結局は見つからなかった。
翌日に会社でその話をすると、「ゴミを捨てるか何かで一度部屋を出たんじゃないの?そしてその時に逃げたんだよ」と言われた。
そんなことは絶対にないと確信していたけれど、あまりにも怖かったので、それが事実で私が玄関のドアを開けたことを忘れている、ということにした。
その日、自宅に帰ってもやはり子猫はいなかった。
そしてその日以来、真夜中に目が覚めると、「みゃあ・・・」と子猫の鳴き声が一声だけ、枕の下から聞こえてくることが続いた。
恐ろしさに耐え切れず、半月ほどでそのマンションを引き払った。
(終)