見る人によって顔が変わる仏様
これは、ある『石』にまつわる不思議な思い出話。
その昔、同僚と3~4人で山に登った時のこと。
なだらかな山道を皆でワイワイ言いながら歩いていたところ、路傍に大きな岩があり、その平らになった表面に仏様が彫ってあった。
長年の風雨にさらされて、表情もなんとか目鼻立ちが分かるぐらいになっていた。
ふと、ほぼ線だけだけになった目鼻の顔を見ていると、急に何とも言えないような心を潰される気持ちになってきた。
そしてその顔が、次第に表情を持ち始めたように見えてきた。
しかも、それが最後まで和解することなく死に別れた”父の顔”に見えてきたのだ。
下山後、同僚の一人が「あの仏様、昔に死んだ友達に見えた」と言うや他の同僚も、ある者は「死別した母に見えた」と言い、またある者は「可愛がっていた犬に見えた」と言う。
皆驚いていたが、そんなこともあるのだろうということで終わったが、ある時に同じような体験をした人に会った。
しかし、その人が見たのは「夕暮れ迫る闇の中で、目が赤く光り、何とも言えない禍々しい悪鬼の顔だった」と言う。
あの仏様が『仏』なのか『魔』なのか、今も分からない。
(終)