怪談はこのようにして生まれるのだろうか?

ダム

 

私の仕事はプログラマー。

 

ただ、プログラマーといっても色んな分野があります。

 

私は僻地のダムや山奥、山頂の中継塔などに行くことが多い業務に就いております。

 

数年前も仕事の一環で、某地方の大きなダムに行きました。

 

客先に行くわけですから、当然スーツを着て、化粧もきっちりし、パンプスを履いて、パソコンが入った大きな鞄と書類ケースを抱え・・・という、周辺状況からは浮きまくりな格好で観光客にもまれながら現場に向かいました。

 

その日の作業は滞りなく終わり、少々時間が余りました。

 

せっかくだからちょっと観光でもしていくか、と上述の格好のままでダムサイトを一巡りしました。

 

湖面に映る見事な紅葉を眺めておりますと、ハイキングに来たと思しき初老のご夫婦が近づいて来て、気さくに声をかけてくださりました。

 

仕事で来ましたと話したところ、奥様の方が「ああ、良かった。こんなところにスーツ姿の若い女性がいるから、てっきり自殺に来たのか、それとも幽霊かと思っちゃったのよ。タクシーの運転手さんがそう言い張ってきかなくてね。確かめてみようと思ってこっちに回って来たのよ」と。

 

私は「・・・」と言葉も返せず呆気にとられました。

 

そして、怪談はこのようにして生まれるのだろうか、などと思った帰り道でした。

 

(終)

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