巻狩中に聞こえてきた似合わぬ音
これは、『狸囃子』のような体験をした話です。
※狸囃子(たぬきばやし)
日本全国に伝わる音の怪異。深夜になるとどこからともなく、笛や太鼓などの囃子の音が聞こえてくるというもの。(Wikipediaより引用)
私はへたれハンター(狩猟家)です。
3年前の冬、山梨県の某所で巻狩をしておりました。
※巻狩(まきがり)
鹿や猪などが生息する狩場を多人数で四方から取り囲み、囲いを縮めながら獲物を追いつめて射止める大規模な狩猟である。(Wikipediaより引用)
私はライフルチームとして、じっとして動かず猪が追い出されるのを待っていました。
無線のイヤホンを耳に嵌め、寒さを忘れようと風音や鳥の鳴き声を聞くこと1時間と少し・・・。
突然、山中には似合わない音が聞こえました。
化かされた?
それは、さながら運動会の実況中継。
曲名は忘れましたが、某カステラメーカーの「カステラ1番、電話は2番、3時のオヤツは文○堂~♪」の軽快なメロディに乗って、実況中継と歓声まで聞こえました。
私は混乱して少し聞き入っていましたが、慌ててシカリ(責任者)に無線を飛ばしました。
私「山頂方向から人の声が聞こえまーす!」
シカリ「はぁー?何だってぇ?おーい!皆聞いたな。止まれ止まれー!」
仲間「遠藤(私の仮名)の横にいるけど何も聞こえませーん」
仲間「私もでーす。どうしたんですかぁー?」
シカリ「ともかく銃から弾を抜け!遠藤、音を探れ!行けー!」
私は正直イヤだったのですが、シカリの言うことに逆らえないのが猟の掟。
渋々ながら登って行きました。
ですが、どんなにゼェゼェ言いながら登って行っても、音が近くにならないのです。
そのうち、仲間から私が視認できるとの無線報告が。
シカリ「どうだー?」
私「何もいませーん!(ゼェゼェ)。音も近くなりませーん!」
シカリ「でも聞こえるんかー?」
私「はーい、そうですー」
シカリ「おめー、そりゃあームジナだろー!テッポを派手に鳴らせー!」
私は何のこっちゃ?と思いながら、弾倉を入れて手近な木の根元に向けてドンドンドンドンドンッ!と5連射しました。
そして銃声による耳鳴りが消えた時、件の音が聞こえなくなっていました。
報告を入れるとシカリが一言、「遠藤が騙されたからこの山やめるぞー!皆降りて来ーい!」との指示。
結局、一番疲れたのは私でした。
(終)