川のせせらぎに混じって聞こえた音と声

 

頃は春、飛弾の高山祭を見物に行った時のこと。

 

市内からほんの数キロ離れた大きな民宿の、川沿いの離れがその日の宿だった。

 

飛弾には旨い地酒が多い。

 

我ら呑んべぇライダー３人組は、昼間に求めておいた食後の酒だけでは足りず、とうとう土産用の酒までスッカラカンに空けてしまった。

 

まだ呑み足りないが、帳場は既に閉じている。

 

足はあっても店がない。

 

「しょうがないから寝るべ」

 

諦めて布団に入り、電気を消した。

 

互いの寝息の他には、川のせせらぎや木の葉摺れぐらいしか聞えない。

 

なんだか耳鳴りしそうなぐらい静かな夜。

 

そして、少しウトウトしかけた時だった。

 

川のせせらぎに混じって、なにやら「シャキ･･･シャキ･･･」と微かな音がする。

 

木の葉摺れとは違う、妙に規則正しい音で、それに被せてはっきりとは聞き取れないが、爺さまの声のようなものも聞える。

 

何だろう？と思っていると、ツレの２人も起きていたらしい。

 

「何か聞える」

 

「なんだ、あれ？」

 

「わからん」

 

悩んでいると、唐突に一人が「明日の朝ご飯、おこわ、かなぁ」と言いだした。

 

「はぁ？」

 

訳がわからない。

 

「だって、今頃、米研いでるし」

 

ああそうか、そう言われれば米を研ぐ音に聞える。

 

爺さまの声のようなものは、きっと水道の音だ。

 

こんな静かな所だからよく響くんだ。

 

納得した我々は、それきり音を気にすることなく眠りに就いた。

 

次の日、宿の人に夜中の米研ぎの話をしたところ、こう言って笑われた。

 

「夜中にそんなことはしませんよ。それはきっと『小豆洗い』でしょう」

 

どうやら我々は、知らない間に妖怪と出会っていたらしい。

 

※小豆洗い（あずきあらい）｜参考

ショキショキと音をたてて川で小豆を洗うといわれる日本の妖怪。水木しげるのゲゲゲの鬼太郎にも登場したことがあり、マニアの間では知名度の高い妖怪である。（Wikipediaより引用）

 

（終）