人形に入り込んで祭りを楽しむ神様
これは、人形にまつわるほんのり怖い話。
彼の実家は山奥にある神社。
神主職を継いではいないが、社の仕事はよく手伝っているそうだ。
秋祭りの際に神楽を奉納するのだが、その折に変わった仕事があるという。
祭りの前に人形を何体か購入し、舞台袖の見えない所に置いておく。
姿形は別に問わないが、手足が動く造りであることが大切であるらしい。
そして祭りが終わった翌日、人形は『魂抜き』をしてから燃すのだと。
なぜそんなことをするのか聞いてみると、「御山から下りてきた神様が人形に入って神楽などの祭り行事を楽しむから」だという。
だから人形に粗々がないよう、大事に扱うよう指示される。
気を付ける点としては、あまり上手い出来の人形は選ばないこと。
もし神様が人形を気に入ってしまうと、なかなか御山に帰ってくれないからだそうだ。
また、角(ツノ)があってもいけないらしい。
なぜなら、神様とは別のモノが入ることがあるからだとか。
「そう言えば・・・」
そう呟いて、彼は言う。
「俺、ガキの頃に社舞台で小さな人影が踊っているのを見た記憶があるんだ。何かの見間違えだと思ってこれまで忘れていたけど、今人形の話をしていて思い出した。あれって神様が入っていたのかなぁ」
「そうかもしれないな」
とりあえず、そう返事しておいた。
(終)