そこの竹を切り倒すと家族が祟られる
これは、友人の体験話。
彼は毎年、地元で開かれる夏祭りに参加しているのだが、その祭りでは鬼の役をすることが多いのだそうだ。
鬼というのは子供を怖がらせて泣かせる役割で、赤い服と天狗の面を付けて、太い竹の棍棒を持っている。
竹は先を細かく割り、地面を叩いて子供を威嚇するのに使うが、ある程度の太さがないと良い音も出ないし、壊れてしまうのも早いという。
去年、その竹がついに壊れてしまったということで、今年は新しく切り出して作り直そうということになり、祭り仲間達に良い竹がある場所を聞いてみた。
「いつも通り、○○水源地の竹で良いんじゃないか?」
「あそこは今どんどん伐採されてるから、太い竹はほとんどないよ」
「□□さん宅の竹林は?」
「ダメ。工事でこの前、重機入れたから、かなり削られてるし」
「ここだけの話、演習場の奥にある竹が、本当に立派で良いんだけどなぁ」
「あそこはやめとけ、やめてくれ。撃たれるから」
ガヤガヤと半分楽しみながら打合せをしていると、ふと思い出した。
「××山にさ、先が行き止まりになっている細い山道があるじゃない?その一番奥のドン詰まりに、目立たないけど竹藪があったよ。あそこの竹はどうかな?確か、結構太かったと思う」
最近仕事をした現場近くの竹を思い浮かべながら、そう提案してみる。
しかし、昔のことに詳しい幾人かが、渋い顔をして否定した。
「あそこのはダメだ。祟るから」
口々に、そんなことを言う。
聞けば、そこの竹を切り倒すと、切った者には何もないが、その家族に散々悪いことが起こっていたのだそうだ。
「死ぬってことはなかったらしいけど、家族に障りがあるのは厭だろ」
それはそうだ。
彼自身はあまりそういうことは信じていないみたいだが、それでもわざわざ自分から地雷を踏みにいくような性格でもない。
結局、ツテを頼って別の竹藪を紹介してもらい、そこの竹を使用したという。
(終)