猫舌の神様ってのもいるんかの
これは、田舎の知り合いから聞いた話。
彼の家は山を持っており、毎年の年末には祠の大掃除と御鏡をお供えに行くそうで。
その時期は雪が積っていることが多く、山の頂上近くにある祠からの眺めも綺麗なので、彼はコッヘル(携帯用調理器具)とコンロを持って行き、大掃除後に景色を眺めながら一服入れようと考えた。
大掃除を終え、古い御鏡も取り替えて、さて一息と湯を沸かし紅茶を作って眼下の景色を楽しんでいると、ゴトゴト、ガタガタと音がする。
「ん?何の音だ?」
辺りを見回しても、そこは開けた山の頂上なので何もない。
よくよく耳を澄ますと、祠の中から音がする。
「ああ、いけね。おすそ分け忘れてた」
そのことに気がつくと、もう一杯作ると祠にお供えした。
しばらくはゴトゴトと音がしていたが、そのうち静かになったそうで。
帰る時にカップを回収しようとしたが、湯気の立つカップの中身があきらかに減っていた。
カップ一杯まで入れていた紅茶が半分くらいに減っている。
「ああ、まだ飲んでるのか」
そう思った彼は、カップをそのままにして下山した。
「猫舌の神様ってのもいるんかの」
そう言って、のんきな彼は笑っていた。
(終)