同僚が自宅マンションで死んでから
※この話にはグロテスクな描写が含まれています
同僚の山崎さん(仮名)が自宅マンションで死んだ。
浴室の照明を付け替えようとして小型の脚立に乗ったところ、脚部の接地面が滑って転倒し、頭部をバスタブに強打したよう。
季節は初夏、ベランダの戸は開いており、浴室のドアも開いたままだった。
無断欠勤が数日間続き、別の同僚が彼の自宅を訪ねて遺体を発見したのだが、開いた窓から入ってきたカラスによって遺体はついばまれていた。
眼球はなく、頭蓋骨の陥没箇所から脳もほとんど食われていたという。
実はこれら詳細を知ったのは、山崎さんから熱烈なアプローチを受けて困っていた女子社員の湯川さんから悩み相談を受けた時だった。
実家の一戸建てに、ご家族と住む彼女。
なんでも、このところ家の周囲にカラスが多くて気味が悪いという。
その辺にいるだけなら無視もしようが、二階の彼女の部屋の窓越しからじっとこちらを凝視したり、窓をくちばしで突いたりするそうで。
「ああ、それはきっと死んだ山崎さんの脳を食ったカラスだよ」
事情を知る社員からその言葉を聞き、その時に初めて山崎さんの死の様子を私は知った。
「湯川さんのことで頭がいっぱいだった山崎さんの脳ミソを食ったんだから、カラスに山崎さんの気持ちが乗り移ったんじゃないの」
趣味の悪い冗談だな、とは思ったが、当人の湯川さんはそれどころでは済まず、気のふれたような悲鳴を上げ、その場で昏倒してしまった。
目の前で気絶した人間というのを初めて見た瞬間でもあった。
以後、彼女は会社を休みがちになり、自宅周辺を空気銃を持って徘徊する危ない人になってしまった。
聞くところによれば、一羽だけ空気銃を命中させたカラスが路上に落ちたところを、彼女によって原型を留めぬまでにグシャグシャに踏みにじられたそうで。
カラスの一件もあるだろうが、山崎さんは相当嫌われていたと思える。
(終)