職場の窓枠に残されていた靴跡
これは、職場で実際にあった話。
当時勤めていた職場に、野崎さんという上司がいた。※名前は仮名
野崎さんはいつも、自分の席横の窓から飛び降り自殺をした人がいることを半ば自慢にしていた。
新入社員や営業さんがやってくると、わざわざ窓枠に残っている靴跡を見せる。
そして、「これがこの人のこの世での最後の靴跡なんだよ」とか、「僕が部屋を出る時にすれ違ったから、僕がこの世で最後に出会った人間なんだな」などと言っていた。
その靴跡は雨に当たらない場所にあったせいか、長い間そのまま残っていた。
そんなある日のこと、職場で大掃除があり、その話題を知らないアルバイトの女性が窓枠を綺麗に拭いてしまった。
靴跡が消えてしまったことで野崎さんは凄く不機嫌になり、その女性をネチネチいじめていたが、ある時から何も言わなくなった。
なぜなら、窓枠に再び埃が溜まり始めると、あの靴跡が現れたからだ。
しかしそれ以降、野崎さんの自慢話はピタリと止まった。
あとがき
件の靴跡がゴム底の靴だとすれば、全体重をかけて踏むと表面のゴムが窓枠にコーティングされ、掃除をすると肉眼では見えなくなるが、時間が経つと埃がそこに吸い寄せられて靴跡が再び現れる、ということは考えられる。
ちなみに野崎さんは、「どうして跡が残ったと思う?脂性の人だったから脂が残ったんだよ」ということをネタにしていたが。
一つ思い出したことがある。
その場所の窓からは、とても綺麗な夜景が見えた。
夕方から夜にかけては、少しづつ灯っていく家の灯りがとても綺麗だった。
私はその夜景が好きだったので、「こんな夜景を見ていたら死ぬ気もなくなるんじゃないかな」と言っていた。
それを聞いた野崎さんとは別の上司は、「これだけある灯りの、どれ一つも自分の帰る場所はないし、受け入れてくれる場所もないと考えてみろ」と言った。
その頃はそんなものなのかなと思っただけだったが、あの時から時間が経った今、上司の言葉の意味が少しずつわかってきたような気がする。
(終)