最期に会いに来てくれたのかなって
小学6年生の時、不思議な体験をした。
あまり幸せな話ではないし、うまくも言えないけれど、誰かに聞いてほしい。
私の家は築100年近くで、かなりボロく廃墟のようだった。
そのせいか、ご近所の人達からはあまり良い目で見られていなかった。
学校でもちょくちょく同級生に「汚い」とか「不潔」と言われたり、同級生の親からも「あの子とは遊んじゃダメ」と言われたりしていた。
小学6年生の2学期の時、席替えをした。
うちの学校は2人1組で机を横に合わせるスタイル。
私の隣は、クラスの中心的存在のマサル君に。※仮名
しかしマサル君はペアが私だとわかった瞬間、「こいつの横とか本当に嫌だ。気持ち悪い。近寄るなよ」と言いながら、並べた机を離す。
私はとても悲しかった。
その後も酷いことをたくさん言われた。
乾燥肌の私の手を見て、「ミイラみたいで汚い」とか。
かなり堪えたけれど、負けず嫌いだったので笑って振る舞ったり、楽しい話を一生懸命に考えて話したりしていた。
そんなことを続けているうちに、机の距離がだんだんと縮まり、2学期が終わる頃には机の距離はなくなっていた。
たわいもない話や恋愛話をする仲になれて、とても嬉しかった。
2学期が終わり、冬休みに。
3学期になったらどんな色んな話ができるんだろう。
もっといい友達になれたらいいな。
そんなことをぼんやり考えていた。
そしてあと数日で3学期という時に、不思議なことが起きた。
その日の晩、寝ていると途中で目が覚めた。
特に怖い夢を見たわけでも、トイレに行きたかったわけでもない。
起き上がって辺りを見回すと、部屋は明かりを消して真っ暗なはずなのに、一面が月に照らされているかのようにぼんやり白く明るくなっていた。
とても幻想的だった。
おかしかったのが、本棚から某海賊漫画だけが少し摘んで取り出したように何冊か出ていた。
それにテレビの上に置いていたぬいぐるみが、私と一緒に布団の中にいた。
理解ができずあたふたしていると、部屋一面の白い光が真ん中に集まりだした。
それがだんだんと人の形になり、こちらに向かってくる。
けれど、気がつけば朝になっていた。
ただ、漫画は本棚から飛び出したままで、ぬいぐるみも布団の中。
やっぱり変だと思った。
起きてリビングに向かうと同時に、家の電話が鳴った。
母が出て10分ほど話した後、電話を切った。
そして母は私の方に近づき、ゆっくりとした口調で「今、連絡網でマサル君が昨日の夜に亡くなったそうよ」と言った。
私は全身の力が抜けて、頭が真っ白になった。
気がつけば、私は電話をしていた。
マサル君が好きだった女子の家に。
女子のお母さんが出た。
ただ、「娘、今泣いてて、電話に出れない状態」と言われた。
私は「ごめんね、大丈夫?」と言っていた。
口が勝手に動いている感じで。
なぜそう言ったのか、わからない。
確かに私は、マサル君とあの子が両想いなのを聞いて知っていたけれど。
女子のお母さんは「ありがとう、伝えておく」と言って電話を切った。
数日後、マサル君のお葬式に行った。
マサル君は寝ているようだった。
式は淡々と過ぎた。
そして式の最後に、「息子が好きだった歌を聞いてください」と曲が流れた。
私がマサル君によく好きだと言っていた曲だった。
亡くなった話を聞いてから実感が湧かなくて涙が全然出なかったけれど、その曲を聞いた途端、マサル君が亡くなった事実が一気に押し寄せて大泣きした。
あの夜の出来事は、なんとなくだけれど、あの光はマサル君だったんじゃないかなと思っている。
最期に会いに来てくれたのかなって。
あの漫画が好きだったし、ついでに読みに来たのかなって。
ずっと心の中にあって誰かに聞いてほしくて、でも言えなかった話。
やっとスッキリできた気がする。
(終)