よくあそこで転ぶだろ?
俺の親友は、昔から幽霊的なものが見える性質だ。
その親友が俺の職場に来た時に、階段を見て「よくあそこで転ぶだろ?」と言ったことがある。
実際よく転ぶ。
職場の人間は一度は必ず転んでいる。
俺は同僚達ともよく、「絶対あれ幽霊いるよな」、「ほん怖みたく女の幽霊がいるんじゃね」、「坊さん呼ぼうぜ」と談笑していた。
良い機会だと思い、親友に階段のところには何がいるのかを訊いた。
すると、「柴犬が伏せて尻尾を振りながらこっちを見ている」と。
その言葉を聞いてから、会社では階段付近に犬用のボールを置くようになった。
時々、職場内でそのボールが誰かしらの近くまで転がってくるので、投げてあげている。
また、階段を使う時は「ちょっと通るよ~」などと言うと、転ばずに済むようになった。
おかげで最近はほとんど怪我をしない。
誰の犬だろう?と思っていたら、同僚が社会人になりたての頃に亡くなった愛犬だったことが分かった。
柴犬を飼っていたのはその同僚だけだったし、よく彼のところにボールが転がる。
ちなみに、成仏などの為に坊さんを呼ぶ気は今のところない。
でもいつか、ちゃんと帰るべき場所に行ってほしいな。
(終)