釣れた魚を焼いていると・・・
これは、職場の同僚から聞いた話です。
彼は渓流釣りを趣味としており、休日には穴場を探して山に入るそうです。
ある秋のこと、渓流を探して山に入っていたはずなのですが、紅葉が綺麗なのに誘われて、“地図でもよくわからないような場所”に着いてしまいました。
「ヤバイ、迷子になってしまったか?」
そう思ったそうですが、近くに水の音が聞こえてそちらに行ってみると、渓流がありました。
「お、いい沢があるじゃん」
彼は迷子になったことを忘れて、釣りを始めました。
意外とよく釣れ、気がついたら夕方近くになっていたそうです。
道もよくわからないので、車から用具を出してその日は野営することにしました。
そして、金網の下で火を熾(おこ)して釣れた魚を焼いている途中、いつの間にか眠っていたようです。
パチパチとはぜる音で目が覚めました。
「いけんいけん、魚が焦げちまう」
しかし、金網を見ると一匹の魚もありません。
「おかしいな、寝てる間に盗られたか?」
狸とか狐にでも盗られたかと思い、また魚を出し、焼き始めました。
焼き始めてしばらく経つと、また眠ってしまったようです。
ふと目を覚ますと、また魚はありません。
「クソっ、次は絶対に寝ないからな」
目の下にメンタムを塗って、最後の数匹を焼き始めました。
しばらく経つと、また眠くなってきました。
しかし、メンタムを塗ったのでそうそう眠りません。
眠くなっては頭がカクンとなって目が覚める、というのを何度か繰り返すうちに、ガサガサッと目の前の茂みから何か動くような音がしました。
「ん、来たか?」
ただ、身構えようにも眠気でぼんやりとしています。
そのまま茂みを見ていると、にゅっといった感じで『手』が出てきました。
「手?なんでこんなところから?」
眠い頭で考えていたそうですが、眠気に負けて寝てしまいました。
「結局、気がついたら朝でさ。魚は一匹も食えんかったわ」
そう言いながら話す同僚に、「手、気持ち悪くなかった?」と聞いてみると、「意外と綺麗な手でさ、白くてなんか女の人みたいだった」と笑いながら話していました。
(終)