その日の患者は一際不気味だった

救急

 

友人のアヤカは市民病院の外科病棟で看護師をしており、彼女からは時々怖い話を聞かされる。※仮名

 

アヤカによれば、交代勤務の中でも特にイヤなのは夜勤だそうで、ナースステーションは明るいとはいえ、やはり雰囲気的には不安を覚えるとか。

 

ある深夜2時頃、慌ただしく急患が運ばれてきた。

 

急患自体は珍しくないものの、その日の患者は一際不気味だった。

 

20代の男性で、脳挫傷を起こしており、ストレッチャーも血だらけ。

 

集中治療室へ運ばれた時には既に息絶えており、即死状態だった。

 

彼を運んでいる最中、アヤカは彼の目がカッと開いているのを目撃し、その光景に恐怖を感じた。

 

特に、彼の傷口から流れる赤黒い血の塊を見た時には、思わず背筋が寒くなったという。

 

その後、病院内でこんな噂が広まった。

 

深夜2時頃に、黒いヘルメットを被り、白のTシャツと黒のジャケットを着た若い男性が歩く姿が目撃されるようになった、と。

 

この話を聞いたアヤカは、その男性の姿がどこか見覚えがあるようで、ゾッとしたとか。

 

しかし、忙しい毎日に追われる中、その話も忘れかけた頃、再び夜勤の日が回ってきた。

 

深夜の時間帯は仮眠をとっている人もいるため、2人で当番をしていると、ナースステーションのガラス越しに誰かの呼ぶ声が聞こえた。

 

不審に思い、中を確認すると、誰もいない。

 

もう一人の看護師も同じ声を聞いたと言うので、何か変だと感じながらも中に入ると、再びその声が聞こえた。

 

「誰か…」

 

そう聞こえる声に、アヤカは患者の容体が急変したのかもしれないと考え、思わずナースステーションを飛び出した。

 

しかし、トイレや廊下には誰もおらず、エレベーター4台のうち1台が地下へ向かって動いていくのが見えた。

 

地下へのエレベーターは職員専用で、一般の患者は使用しないはずだったが、アヤカは何か引き寄せられるようにそのエレベーターのボタンを押し、地下へと向かった。

 

地下1階に到着すると、あの若い男性が近づいてくる…。

 

彼の姿は血もない事故前のものであり、アヤカに向けてすがるような目をしていた。

 

アヤカは思わず声をかけようとしたが、男性は突然消えてしまったそうで。

 

不思議とその時はそれほど恐怖を感じなかったというアヤカは、直感的にその男性が悪い霊ではないと感じたとか。

 

その後、アヤカはその男性の母親と出会い、彼が事故の際か病院で、彼女から貰った金のブレスレットを失くしており、それが彼の気になっていたことだと知った。

 

アヤカはその事実を聞いてとても悲しくなり、涙が止まらなくなった。

 

彼はきっとブレスレットを探していたのだろうと思う、とアヤカ。

 

それから間もなく、彼の姿は現れなくなったという。

 

(終)

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