焼け落ちたままの廃墟ホテルの探索にて
これはある年の秋頃、とある北海道の観光地にある『廃墟ホテル』でのことです。
会社の同僚3人と北海道へ遊びに行き、適当に時間も深けた頃、一人が「怖い場所とか知らない?行ってみたい」と言い始めました。
車を運転していた私は「じゃあ良い場所があるよ」と言って、早速その場所に向かいました。
そこは元はホテルだったのですが、かなり昔に火事で焼け落ちてしまい、その後もそのまま放置してある建物でした。
実は、私は何度かここには来たことがあり、中の構造も知っていたので、廃墟であっても安全に何事もなく帰れると安易に考えていました。(以前に同じような所で酷い目に遭ったことがあるもので…)
目的地に着いて車から降りると、一緒にいた内の二人が「なんか寒いね。やっぱり怖いからここで待ってるよ」と言いました。
私ともう一人は全く寒さは感じていなかったのですが、風邪でもひいたのかな?と思い、仕方ないので熱心に行こうと勧める友人一人を連れて中に入っていきました。
ただ懐中電灯がなかったので、コンビニで買ったロウソクに火をつけて歩き回ることに。
始めは左右の分かれ道を右に行き、その後は玄関の前を通りました。
これが玄関を通った1回目です。
次は左の階段を上り、2階にある小通路を抜け、小さなドアの前に辿り着きました。
ここからがおかしかったのです。
前述の通り、私は何度も廃墟になってからのこの建物の中に入っています。
明るい時にも暗い時にも。
本当に中の構造は知り尽くしているつもりでした。
しかし、そんなドアがあったことは知りませんでした。
不思議に思いながらも恐る恐るドアを開けて中に入ってみると、なぜか全く逆にあるはずの玄関に戻っていました。
これで玄関を通るのは2回目です。
私たちは首を傾げながら、「とりあえず屋上に上ってみようか」となり、そこを目指すことに。
ただ階段を上るうちに、大した風もないのに何度もロウソクの火が消えるので、思う以上に階段を上るのに時間がかかりました。
やがて屋上に着いて下を見下ろすと、待機していた二人が上を見ています。
しかし私たちが「お~い!」と声をかけた途端、二人して「キャー!!」という悲鳴を上げて車に戻ってしまいました。
何があったのかわからない私たちはとりあえず階段を駆け下り、車に鍵をかけて中に閉じ篭っている友人に「何があったの?」と尋ねると、「なんで…なんであんた達が屋上にいるのよ!?」と言うのです。
それ以上は泣きじゃくってしまって何も聞けなかったのですが、もう一人の友人の話によれば、私たちは最初に玄関から入っていって右に行き、しばらくすると玄関の前を通っていった。(1回目)
そしてしばらくすると左に行ったはずがまた右に行き、また玄関の前を過ぎていった、とのこと。(2回目)
おかしな話なのですが、それは私たちにも何となく理解できました。
しかし、その後の話に背筋が凍りました。
私たちが2回目に通った後、“3分ほどして私たちがまた玄関の前を通った”と言うのです。
しかもその時に待機していた二人の友人たちは、その私たちに「もう帰ろうよ」と声をかけたと言うのです。
すると、“その私たち(のようなもの)”は「う、うん…。誰か居るんだ。誰か居るんだ」と言って、また階段を上っていったそうです。
顔は暗くて見えなかったそうですが、ロウソクを持っていたので間違いはないと。
そして、その私たちのようなものが屋上へ上っていき、ものの5秒ほど後に私たちが上から声をかけたと言うのです。
その建物は5階建てで、まず絶対に5秒では上りきれるものではありません。
しかも私たちは前述した通り、何度もロウソクの火が消え、上るのには時間がかかりました。
そんな話を聞かされた私たちは急に怖くなり、「もう帰ろう…」と車に乗り込もうとした時でした。
「・・・帰るの?」
その言葉を、私たち全員がはっきりと耳にしました。
その瞬間、一緒に屋上に上った友人が私と同時に声のした上の辺りを見上げると、小さなロウソクの明かりのようなものが見えました。
そして、その明かりに照らされているにも関わらず、全く顔が見えない“二人の影も”。
(終)