「鍵を閉めてよかったの?」
これは、私が高校生の時の体験話です。
当時は吹奏楽部に所属していて、わりと遅くまで練習することがありました。
中でも私は家が遠く、電車での通学だったのですが田舎なので本数が少ないこともあって、電車の時間まで一人で部室で過ごすのが日課でした。
大会や演奏会前は居残り練習をする部員がいて賑やかなのですが、基本的には終礼が終わった後は最後に部室を出るのは私で、部室に施錠をして帰っていました。
この部室というのが、学校の敷地内の一番端に離れて建っており、隣は山ということもあって暗くなると本当に不気味でした。
そんなある日のこと、親が迎えに来てくれるということになり、他の部員が帰った後、またいつものように一人で部室に残っていました。
そして部室の中の一番角にあるドラムの椅子に座って楽譜を整理していると、コンコンとドアを叩く音がしました。
もう暗い外をドアのガラス越しに見ると、母が迎えに来ていました。
部室の電気を消して施錠をし、何事もなく車に乗り込むと、母が不思議そうな顔で訊ねてきました。
「後ろにもう一人女の子が立ってたけど鍵を閉めてよかったの?」と。
ゾッとしました。
間違いなく部室には一人きりでしたし、ましてや狭い部室でドラムの椅子の後ろに人が立てるスペースなんてないのです。
誰もいないと言って早く車を出すように促しましたが、母が見たものは何だったのでしょうか…。
(終)