幼い頃によく現れた隙間おばさん
これは、僕が2~3歳の頃の話。
夜に寝ていると、いつも隙間におばさんが現れていた。
壁に寄せ付けているベッドと壁の間に、真ん中分けをした黒髪と鼻から上だけを覗かせて、ベッドの縁に両手をかける感じで。
それも、まあまあの頻度で現れていた。
怖いという概念がなかったのか、それとも怖くなかったのかはわからない。
僕は特に驚きもせず、自分の楽しかった話を聞かせたり、指の部分だけでじゃんけんをしたりして、一緒に遊ぶように過ごしては、いつの間にか眠りにつくことを繰り返していた。
でも、少しずつ物事の分別がつく年頃になってきて、“この存在が異様なモノなのでは?”と漠然と感じるようになり、怖いと思うようになった。
ある日、いつものように隙間おばさんが現れた時、とうとう「もう来ないで!」と、お願いしてしまった。
しばらくの間、悲しそうに目線を落としたおばさんが、次の瞬間にそれまで隠れていた鼻から下の大きな口を露わにして、僕の腕を掴んでは引きずり込むように引っ張ってきた。
僕は泣き喚きながら、「離して!助けて!」というようなことを叫び、完全に発狂した。
急いでやってきた父と母が、僕を抱きかかえて介抱したという。
案の定、父も母もそんな存在を見ているはずもなく、僕もあれは子供の感受性が見せた幻かな?と思うようになった。
それから十数年が過ぎた頃、僕が今の母から生まれた子供ではないことと、実の母が亡くなっていることを知った。
そして、実の母の写真を見せてもらう機会があった。
・・・予感はあった。
そこに写っている女の人は、やっぱり僕に似ていた。
(終)
考察
「えっ?写真に写っていた女の人は隙間おばさんに似ていたんじゃないの?」と、話の終わり方に疑問を持った人が多いかもしれないので考察として追記する。
なにせ、実の母と顔が似ているのはおかしなことではないからだ。
この隙間おばさんが実の母だったというオチに見せかけながら、実はそうではなかった・・・と言いたかったのではないだろうか。
モヤモヤ感は残るが、彼の前に現れていたおばさんは、文中にも出てきたように『異様なモノ』だった可能性がある。
(考察・終)