陶芸家の叔父が作った器でもてなす食事
これは、陶芸家の叔父が作る器にまつわる不気味な内輪話。
たまに失敗作の茶碗や湯飲みを貰うのだが、どれを使っても食事が不味く感じた。
でも、叔父の作った器は普段より美味しく感じるとか、食欲をそそるとかで好評なんだとか。
昔、彼女を実家に招待した時、豪勢な食事が叔父の器で用意されていた。
当時の俺は「叔父の器は使いたくない」とよく言っていたから、何の嫌がらせかと思った。
だが彼女は開口一番に「美味しそう!」と言って、妙に興奮していたの覚えている。
ともあれ彼氏の両親の手前、お世辞かなと思っていたが、普段よりもずっと美味そうに食べていた。
両親と彼女が軽く会話をして、気づけば時間も頃合いで、もう遅いからと駅まで送った。
その時、しきりに彼女は「お母さん料理上手だね。本当に美味しかった」と言っていた。
よく食べたねと適当に流し、見送ってすぐに家に帰った。
この時、彼女への熱が冷めていた。
本当に急に冷めた。
それに、家に帰って両親に彼女の印象を聞いてみると「やめとけ」の一点張りで、理由も何も教えてくれなかった。
気持ちも冷めていたので、その後あまり関係は続かなかった。
それから何度か新しい彼女を両親に紹介し、実家で食事の機会があったのだが、そのたびに叔父の器でもてなされていた。
そんな中、今の妻にだけは「ビックリするほど不味い」と言われたのだ。
俺は初めてマズいということに共感できたことが嬉しくて、叔父の器の件を彼女に話してみた。
すると、「冷凍食品をアレンジしただけのわりに不味かったから、お母さんは飯マズさんかと思った」と言われ、もう何も喋れないくらいの衝撃を受けた。
当時は彼女だった妻を見送り、家に帰ってすぐ母に、「彼女の紹介の日に冷凍食品って何考えてんだよ!」とブチ切れたところ、父が割って入って、しきりに「いい子だったな」と初めて褒めた。
その時になってやっと、叔父の器と冷凍食品だった理由を教えてくれた。
叔父の器の材料の土は、人が沢山亡くなった山の土だそうで、土に色々と混じっているのをあえて使っているらしい。
父曰く、「そんな器でただの冷凍食品を美味しく感じる奴は何かある」ということだった。
(終)