車のバックミラーに映ったもの

昼間に一人で

車を運転していました。

 

T字路で赤信号に捕まったので、

 

時間潰しのために向かいの壁や

左右に視線を動かしていました。

 

その時ふと、

バックミラーが目に入りました。

 

後ろにはワゴンが止まっていて、

運転席には男の人が座っていました。

 

そこまでは普通だったのですが、

 

私はワゴンの助手席に、

おかしなものを見ました。

 

おかしなものと言っても、

それは人です。

 

赤い服を着た、

 

髪の長い女の人が

助手席にいるのですが、

 

それが妙におかしいんです。

 

隣りの運転席の男性と比べて、

かなり座高が低いように見えます。

 

頭の位置が、男性の

肩くらいの場所にあるんです。

 

背の低い子供でしたら

そういう風に見えても普通なのですが。

 

その女の人は、

頭の大きさや肩幅から考えて、

 

一般的な成人女性と同じくらいの

身長と思われます。

 

ですから、

座席に座った時は、

 

男性と同じか少し低いくらいに

なるのが普通のはずなのですが。

 

その女の人の頭の位置は、

どう見てもおかしい低さでした。

 

しかも、目が怖いんです。

 

眉も目の端も吊り上がり、

 

車の外にいる何かを

睨んでいるように見えます。

 

バックミラーに映る、

その女の人の姿にぞっとしました。

 

車が揺れているのか、

自分が震えているのか、

 

分からなくなった頃に、

信号が青に変わりました。

 

私は急いでアクセルを踏むと、

そのT字路を左へ曲がりました。

 

曲がりながら再びバックミラーを見ると、

ワゴンはまっすぐ進んで行きました。

 

しかし、それは変です。

 

先程も書きましたが、

この道はT字路で、

 

直進したらそこにあるのは

民家の壁です。

 

「え?」

 

と思ったときには、

手遅れでした。

 

ワゴンは向かいの壁へ、

恐ろしい勢いで追突しました。

 

私は急いで車を止め、

降りてワゴンへ走りました。

 

赤信号で止まっている車の

運転手さん達も急いで降りて来て、

 

皆でワゴンに駆け寄りました。

 

運転席を覗き込んだ私は、

 

その時あまりの恐怖に

声が出ませんでした。

 

ワゴンの中には、

一人しか乗っていなかったのです。

 

乗っていたのは、

 

赤い服を着た、

髪の長い女の人でした。

 

ワゴンは左ハンドルだったのです。

 

そして、助手席となる右側の座席には、

誰も乗っていませんでした。

 

女の人が実在し、

 

何も感じなかった男の人こそが、

幽霊だったのでしょうか。

 

その時は本当に

目の前のことが信じられず、

 

体がガクガク震えました。

 

そして最後に、

 

気付かなければ良かったのに、

と思うことに気付いてしまいました。

 

女の人は鏡の中で見た通りの

赤い服を着ていたのですが、

 

その服は血の色で

赤く染まっていました。

 

元々は白い服だったのです。

 

その証拠に、

 

服の背中や腹の辺りは、

まだ白いままです。

 

きっと、壁にぶつかる前は、

まだ真っ白だったはずなんです。

 

思い出すと今でも恐ろしい・・・。

 

(終)

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