霊感の強い友人宅の風呂場で体験
大学生時代、
学校の近くのアパートに
一人暮らしをしてる友人Sは、
俗に言う「霊感の強い奴」
だった。
元々、俺は幽霊話や
怪談話は好きだったが、
あまり「霊を見る」事は
無かったと思う。
ところが、
Sと付き合い始めてから、
そいつの影響か、
よく「霊体験」をする様になった。
俺はその頃、
Sと本当に仲が良く、
家に帰らずにSの家に
何日も泊りっぱなし、
という事も珍しくなかった。
あれは確か、
7月の半ば位だったか。
俺の所属するクラスの
ほとんどの皆が、
課題を期限内に完成させる事が
出来なかった。
なので、
他の科の奴等は夏休みに
入っているにも関わらず、
登校して作品制作に
精を出していた。(美術大学)
その日も帰りが
遅くなった事もあり、
家に帰るのがかったるく
なってしまったので、
Sの部屋に泊めてもらう事にした。
工房内にエアコン等が
あるはずも無いので、
体中が汗臭い。
またFRPを使っている為に、
作業服を脱いでも体のあちこちに
ガラス繊維が付いているので、
チクチクして仕方がない。
俺はシャワーを浴びさせて
もらう事にした。
先にシャワーを浴び終えたSは、
「ちょっと用があるから出掛けて来る。
シャワー浴びてて良いよ」
と言って、
出て行ってしまった。
ようやくこの不快感から脱出できる!
人の家にも関わらず、
着ていた服を適当に脱ぎ捨て、
風呂場に入った。
こういう時のシャワー程、
気持ちの良いものは無い。
昇天するかの様な気持ちの良さを
満喫しながら、
髪を洗い始めた。
その風呂場には
小さい椅子が置いてあって、
それに座り、
下を向く感じで
髪を洗っていたのだが。
なんとなく違和感を感じた。
・・・人の気配?
視界には自分の膝、
そして爪先・・・
と入って来るのだが、
その先にもう一つある。
俺が入った時は、
先客は中にいなかった。
(当たり前だが)
小さい。
男の足では無い。
女か?
しかも薄い土色というか、
生気の無い色をしている。
造り物の様だ。
・・・そして、
爪先はこちらを向いている。
一瞬パニくりそうになったが、
Sが言っていた事を思い出した。
「向こうに、こっちが(向こうの存在に)
気付いてる事を悟られては駄目だ」
その場が風呂場とは思えない程、
全身を寒気が包み、
泣きそうになるのを堪えた。
目を閉じ、
必死で気付かないフリをして、
髪を洗い続けた。
不意に、その「足」の方から
声が聞こえてきた。
こもっていると言うか、
ちょうど隣の部屋のテレビの音が
聞こえる様な感じで。
何を言っているかは聞き取れない。
会話の様に聞こえたと思う。
時間の感覚は既に無い。
その「物体」は永遠と俺の前で
会話らしきものを続け、
俺は髪を洗い続けている。
その時だ。
ふと「会話」が止んだかと思うと、
その「物体」は『バタン!』と、
物凄い勢いで風呂場の扉を開けた。
『ドン!ドン!ドン!』
と、アパート中に響き渡る程の
大きな足音を立てて走る。
『ガラララ、バン!』
と、またも物凄い勢いで、
ベランダのドアを開けて出ていった。
俺はもうその場にいる事が出来ず、
シャンプーも流さずに、
ズボンだけ履いて外へ逃げ出た。
そしてSが帰って来るまで、
アパートの門で震えながら座り込んでいた。
(終)