息子を部屋に閉じ込めてしまった結果

私の妻は、二週間前に

病死しました。

 

妻の死は、

私の一人息子にとっても、

 

あまりにも悲しい出来事

だったのでしょう。

 

いつも素直で明るく

元気だった息子は、

 

妻が死んだ時、

 

泣きながら妻の亡骸から

離れようとしませんでした。

 

それ以来、

 

私の息子は口数が少なくなり、

 

いつも一人でブロック遊びばかりを

するようになったのです。

 

また、妻が死んでからの息子は、

毎日おねしょをするようにもなりました。

 

それでも私は、

 

時間が経てば息子も心の傷が癒え、

昔の元気を取り戻すだろう、

 

と楽観的に考えるよう

努めていたのです。

 

そして、私は毎日、

 

息子に明るく接するように

していました。

 

でも、私には仕事もあり、

 

息子と一緒に居られる時間が

限られていたのです。

 

私はそれが歯がゆくて、

会社でも息子を心配するあまり、

 

仕事で致命的な失敗を

することもありました。

 

そんなある日、

 

私が会社から帰宅すると、

 

息子が灯油を手で掬って

舐めていたのです。

 

私は慌てて、息子を

叱り付けてしまいました。

 

でも、それからも息子の奇行は

治まらなかったのです。

 

治まるどころか、

 

息子の奇行は、どんどんと

エスカレートしていきました。

 

砂や粘土を食べたり、

クレヨンを食べたりと、

 

息子は何を食べるか分からない状態

だったのです。

 

私はやむを得ず、

 

息子が変な物を口に入れないよう

部屋に閉じ込め、

 

会社に行きました。

 

「仕事が終わったら、

すぐに病院へ連れて行こう」

 

私は、そう考えていたのです。

 

でも、それが間違いでした。

 

私が息子の所に来た時、

すでに息子は死んでいたのです。

 

息子は、部屋中に

 

「おとうさんだして」

 

と書いていました。

 

息子は、飲み込んでいた

クレヨンを吐き出し、

 

そのクレヨンを使って

書いていたのです。

 

息子は、さぞかし寂しく

不安な気持ちだった事でしょう。

 

私はすぐに、息子の亡骸を

部屋から出してあげました。

 

そして私は、

 

「ごめんな、ごめんな、」

 

と泣きながら、

何度も息子に呟き続けたのです。

 

息子の葬式中も、

 

私は息子に対して申し訳ない

気持ちでいっぱいでした。

 

だから私は、

 

息子が安らかに成仏出来るよう、

懸命に祈ったのです。

 

でも、無駄でした。

 

息子は、

まだ成仏出来ずにいます。

 

その後も、

 

息子を閉じ込めた部屋から、

声が聞こえました。

 

「おとうさんだして」

「おとうさんだして」

 

と息子の声が・・・。

 

息子は部屋中に、

 

「おとうさんだして」

 

と書いていました。

 

椅子に登り、

高い所にまで・・・。

 

そして息子は椅子から滑り落ち、

 

恐怖のあまり、目を堅く瞑ったまま、

死んでしまったのです。

 

私は息子の声に耐えられず、

家を売りました。

 

そして、今でも私は、

 

息子を閉じ込めた部屋に

近付く事が出来ません。

 

きっと、息子は今でも

目を閉じたまま、

 

出口も分からずに

叫び続けているでしょう。

 

「おとうさんだして」

 

・・・と。

 

(終)

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